世界から注目されている日本のシニアビジネス動向
日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は、2023年現在で29.1%に達しました。この数値は世界一です。この「超々高齢社会・日本」の動向は世界各国から注目されています。
私はこれまでに、アメリカ、イギリス、ドイツ、スイス、韓国、シンガポール、香港、台湾で開催された国際会議やカンファレンスに何度も招待講師として招かれています。
また、EUやスウェーデン大使館、イタリア大使館などから講演会に招かれる機会も何度かありました。さらに、アメリカ、イギリス、スウェーデン、デンマーク、ブラジル、シンガポール、香港、台湾、中国のメディアからも何度も取材を受けています。
こうした講演や取材での共通の関心事は、日本の高齢化に伴う課題とその解決策について意見が聞きたい、というものです。国際会議では、常に日本との比較、日本の話題が登場し、日本に対する高い関心を身に染みて感じています。
また、特に最近はスウェーデンやデンマークのような、日本が羨んできた北欧の高福祉国から日本のシニアビジネス動向について尋ねられる機会が増えていることに驚きます。
このように世界から注目される理由は、よくも悪しくも日本が高齢社会に必要なことの「ショーケース」となっているからです。
年金などの社会保障の課題だけでなく、個人の健康や生活設計に対するニーズには「世界共通」のものが多い。だから日本をじっと見ていれば、自国の近未来の姿が見えてきて、自国で課題が顕在化する前に対策を講じることができるのです。
シニアビジネスで、日本は世界のリーダーになれる
私は、高齢社会対策、特にシニアビジネスの面で、日本は世界のリーダーになれると真面目に考えています。その理由は、日本で揉まれたシニアビジネスが世界で通用するからです。そのポイントは次の2つです。
第1に、日本では高齢化の課題が世界のどこよりも早く顕在化します。これは裏返せば、シニア分野でのビジネスチャンスが世界のどこよりも早く顕在化することを意味します。だから、常に世界に先駆けて商品化でき、いち早く市場に投入できる優位性があります。
第2に、シニア市場とは多様な価値観を持った人たちが形成する「多様なミクロ市場の集合体」であることです。この「多様性市場」には、きめ細かな対応力が求められますが、日本の高度な集積化技術と、日本人の細やかな情緒感覚がこの対応力の源泉となります。
このように日本は、シニアビジネス分野で他国に対して優位に立てる素地を十分に持っているのです。
「企業活動のシニアシフト」は、これから他の国でも必ず起こる
国連の定義によれば、高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」といいます。ちなみに21%を超えると「超高齢社会」といい、日本は2007年から超高齢社会になっています。
皆さんは、2030年までにアフリカや中近東を除く世界の多くの国が「高齢化社会」に突入することをご存じでしょうか。ますます混沌とする世界情勢のなかで、世界中で確実な構造的変化は「人口動態のシニアシフト」なのです。
したがって、日本で本格化した「企業活動のシニアシフト」は、これから他の国でも「人口動態のシニアシフト」につれて一定の時間差をおいて必ず起こります。特に高齢化率の高いヨーロッパでは、近い将来間違いなく起こります。
フランスが2014年頃から「シルバーエコノミー」を掲げて活動を活発化しているのは、まさにその一例です。
だから、日本企業は、今のうちに切磋琢磨して、自社の商品・サービスに磨きをかけることです。そうすれば、それらの商品・サービスは、一定の時間差をおいて「人口動態のシニアシフト」に直面する他の国から必要とされるようになるのです。
私は、アメリカで日本の高齢化の話をする時に、「皆さん、私は“明日”からやって来ました。私たち日本は、皆さんの“未来”を生きています」とジョークを飛ばすことがあります。
これは単に日付が変わるほどの物理的な時差があるだけでなく、高齢化の面でアメリカよりも日本のほうが先を行っていることを強調したいためです。
シニアビジネスは、「タイムマシン経営」によって規模がグローバルになる
シニアビジネスは「タイムマシン経営」によって、規模がグローバルになるビジネスです。
ここで「タイムマシン経営」とは、高齢化に伴う課題に真っ先に直面する日本でまず商品化し、それを一定の時間差をおいて同様に高齢化に直面する他の国や地域に水平展開することです。
すでに一部の介護サービス企業が、中国などに進出しているのは、この「タイムマシン経営」に近いものと言えましょう。
一方、おむつメーカーは日本国内では市場が縮小している赤ちゃん用おむつに代わって、大人用おむつで市場を拡大しつつ、海外の新興国では赤ちゃん用おむつの市場を拡大しています。
この場合の優位点は、おむつの原料が赤ちゃん用も大人用もそれほど変わらないことです。つまり、赤ちゃん用の経営資源を大人用に振り替えることで国内でも市場を拡大し、海外では従来の商品を投入して市場拡大を図るやり方です。これも効率のよい「タイムマシン経営」の一種です。
シニアビジネスは、「グローバル・ライフサイクル・ビジネス」になる
これを一般化すれば、従来、子供用に提供していた商品を大人用に切り替えることで大人用市場を拡大しつつ、海外の新興国では従来の子供用商品を投入して市場拡大を図るビジネスモデルになります。
そして、その新興国が高齢化したら、日本で練り上げた大人向け商品を、満を持して投入すればよいのです。
こうして見ると、シニアビジネスは、「時間的な垂直展開」と「地理的な水平展開」とによって、グローバル規模で顧客のライフサイクルにわたるビジネスになるのです。
このように考えると市場可能性は無限大に広がり、暗いイメージに陥りがちな高齢化に明るい希望を見出すことができます。
これから本格的にシニアシフトに取り組もうという企業は、ぜひ、こういう発想で事業を構築するべきです。