日本のシニアに売れれば世界に通用

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2010年2月16日 日経懇話会会報Vol.125 連載 シニアビジネス豊国論 第3回

脳トレソフトが3千万本売れた理由

脳トレブームのけん引役となった任天堂「脳を鍛える大人のDSトレーニング」は、続編と合わせた累計販売本数が3000万本を超える。DSシリーズの累計販売台数が世界で1億台を超えているので、およそDS3台に1本の割合で売れたことになる。これだけ売れた理由は、従来子供向けだったビデオゲームを「中高年でも楽しめるもの」へ転換したこと、日本市場だけでなく、「海外市場」にも販路を広げたことにある。

中高年になると記憶力など脳機能の衰えを感じ、漠然と不安を感じる人が多い。だが、こうした脳機能の衰えを食い止めたり改善したりする科学的な裏付けのある商品はありそうでなかった。

脳トレソフトの監修者で、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授は、人間の最も高次の機能を司る脳の前頭前野が、簡単な計算、音読、手書きなどの「シンプルな作業」で最も活性化されることを発見した。脳トレソフトはこの研究成果を応用したものである。

とはいえ、大学の研究成果だけで即ベストセラー商品になるわけではない。任天堂が川島教授の助言をもとに最新の音声認識技術や手書き文字認識技術を組み合わせ、対話型のビデオゲーム機で長年培ったノウハウを活用し、飽きさせない脳トレプログラムに仕立て上げたのだ。

また、従来のビデオゲームとの違いは、プレーヤーを所々でほめたり、励ましたりする機能を付加したことだ。実はこうした「励まし」が学習者の意欲を高め、楽しく継続しやすくすることも脳科学研究の成果なのだが、これをゲームの中に取り込んだ点にDSソフトの卓抜さがある。

ギネスブックに載った癒しロボット「パロ」

産業技術総合研究所(茨城県つくば市)が商品化した癒しロボット「パロ」=写真=は、世界20カ国の高齢者施設へ導入され、ギネスブックにも登録されている。高齢者施設だけでなく、子供のいない高齢世帯もパロを購入している。

パロが受けている理由は、ロボットでありながら、ロボット臭さがないためだ。アザラシの赤ちゃんのような外見で、こちらの言うことに逐一反応し、言葉を学習する機能も持つ。このため、購入者はロボットというより家族の一員として扱っていることが多い。動物とは異なり、レストランや旅行先にも連れて行ける。もちろん餌は不要。しかも動物のように死なない。このように動物の良い面と機械のよい面を併せ持っている。

エヌウィック(東京・港)の「マインレット」=写真=は、世界初の重介護者向けの温水洗浄による自動排泄処理機だ。これに目をつけたデンマーク工業技術研究所が、今年の二月から導入試験を開始する。福祉先進国として知られるデンマークに実力を認められた商品なのである。

重介護者の排泄処理は、介護スタッフにとって最も負担の大きい作業の一つだ。一日6回のおむつ交換が必要で真夜中の作業も必要だ。辛いのは介護スタッフだけではない。介護される側にも他人に下の世話を頼らざるを得ない恥じらいや負い目が重くのしかかる。この両者の負担を軽減するのがマインレットなのだ。

細部へのこだわりが世界をうならす

なぜ、日本発のシニア向け商品が海外で売れるのか?

第1に、生活水準が似ている国どうしは、シニアのニーズも似ている。日本のシニアが求める商品は、他国のシニアにも求められる可能性が高い。

もちろん、国が変われば文化や習慣の違いは存在するので、多少の現地化は必要だ。だが、生活水準が同程度であるならば、日本のシニアが求めることと他国のシニアが求めることに大きな差はない。

第2に、シニア市場とは「多様性市場」であり、きめ細かな対応力が求められる。 日本の集積化技術、日本人の細やかな情緒感覚、商品改善力が発揮されやすい分野なのである。

マインレットのような商品は、排泄という生命の維持に重要で、繊細な部位を扱うがゆえに、商品の形状・材質・動作の正確さなどは「きめ細かさ」の結晶と言ってよい。こうした細部の品質にこだわる日本人の価値観が、シニア市場に合致するのである。

この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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