日本経済新聞 2014年1月23日朝刊 1面 シニアが拓く 2020年のニッポン(4)
アジアと一口で言っても広範で多様であり、内実は複雑
日本経済新聞「シニアが拓く」のコーナーで次の通り、私のコメントが掲載されました。
世界で最も早く高齢化が進む日本では20年に65歳以上の割合が3割に迫る。その波はいずれ世界の国々にも押し寄せる。英国では30年、中国でも40年には65歳以上の割合が20%を超える。明日は我が身と日本のシニア向けビジネスの現状を注視する。
シニアの消費行動に詳しい東北大学特任教授の村田裕之(51)は「タグ(値札)を大きくしたり小分けの商品を増やしたりと、日本の小売業はきめ細かさが売り物。高齢者の所得水準が上がるなど条件が整えば、日本の小売業のモデルは海外に通用する」とみる。
いつもながら記事では取材でお話ししたことの、ごく一部しか載らないので、ちょっと補足をします。
企業活動のシニアシフトは、これから高齢化していく日本以外の国でも進行していきます。特に日本同様、高齢化が進んでいるヨーロッパはもちろん、最近は特にアジア各国でも高齢化対策への関心が高まっています。
その一方でアジアと一口で言っても広範で多様であり、内実は複雑です。アジア市場というマス・マーケットはないとみるべきです。だから、実際にアジア市場に進出する場合、国ごと、地域ごとにきめ細かな事業戦略が必要となります。
たとえば、高齢化率は日本が24.1%なのに対し、香港や韓国、シンガポールがいずれも10~11%でいずれも日本の半分程度。ところが、これらの国と地域は次の20年で急速に高齢化する見通しです。その理由は日本よりも低い出生率が続くと予想されているからです。
どんな商品やサービスを、どのタイミングで、どの地域に投入すべきか周到に考える必要
一方、中国の高齢化率は7%程度ですが、実人数で言えば圧倒的に多い。現時点で60歳以上の人口は1億6,000万人くらい、65歳以上でも1億1,000万人はいます。しかし、この人たちがすべて顧客になるかというとそうではありません。9割程度は低所得でお金がない層といってもいいでしょう。
退職年齢も国によってさまざまです。日本では65歳で定年なのに対し、シンガポールでは62歳で、これを近く65歳に引き上げる見通しです。韓国では企業によって定年は55~63歳と幅を持たせており、平均は58歳とされています。
このように、アジアと一口にいっても状況はさまざまです。だから、企業が進出する際には、高齢化率やシニア人口の絶対数、所得水準や所得格差、退職年齢、人口分布などさまざまな要素を考慮し、どのような商品やサービスを、どのタイミングで、どの地域に投入すべきかを周到に考える必要があるのです。