身の丈起業 生活に張り:定年後に起業する① 

新聞・雑誌

朝日新聞 2015年4月20日 Reライフ 人生充実 なるほどマネー

定年後「身の丈起業」のすすめ

朝日新聞朝刊の「Reライフ 人生充実 なるほどマネー」のコーナーで「定年後に起業する」と題した連載を始めました。

連載第1回のタイトルは「身の丈起業 生活に張り」。定年後の起業には「従来型起業」「身の丈(みのたけ)起業」があります。従来型起業は、綿密な事業計画書を作成し、それを基にベンチャーキャピタルなど外部機関から起業資金を調達し、複数のスタッフを雇って起業するものです。

これに対して「身の丈起業」は、起業資金は自己資金で賄い、スタッフは自分1人プラス1名程度で起業するものです。私は10年前にこの形態を「ナノコーポ」と名付けたところ、高齢者活躍支援協議会という団体が数年前から「ナノコーポのすすめ」という起業講座を行うようになりました。本連載では「身の丈起業」を対象に話を進めます。

連載第1回では「なぜ、退職後も仕事を持って収入を得るのがいいのか」について私の考えをまとめました。定年退職が近い方や定年退職まで数年あるものの老後の生活が不安の方にお役に立つ内容と思います。

なぜ、退職後も仕事を持って収入を得るのがいいのか?

現役サラリーマン時代には毎日出かける場所があったのに、退職後はなくなります。毎日やることがないと、自宅にいる時間が増え、目的のない時間つぶしが増えがちです。さらに高齢になると独り暮らしが多くなり、人と接する機会が減り、引きこもってしまう傾向が強まります。

これらを防ぐには、やはり退職後も何らかの仕事をして年金以外の収入を得るのが一番です。

「それが理想だが高齢になると現実には難しい」と思うでしょう。しかし、例えば、徳島県上勝町(かみかつちょう)では、料理を彩る「つまもの」を生産・販売する「葉っぱビジネス」で、年収1千万円以上稼いでいる80代の女性もいます。

年金以外の収入を得られると何がいいのか

年金以外の収入を得られると何がいいのか。第一に、生活に余裕が出ます。旅行に行ったり、お孫さんにプレゼントをあげたり、といったことがしやすくなります。上勝町の例ではお孫さんに家を買ってあげたという方もいらっしゃいました。

第二に、生活にリズムが出ます。お年寄りたちは、葉っぱビジネスの仕事がなかったときは、家でだらだらテレビを見ていたり、ごろごろ寝ていたりする時間が長かった。しかし、葉っぱビジネスに参加するようになってからは、決まった時刻に起き、やることが多いので作業の段取りを考え、優先順位を決めてから取りかかるというリズムのある生活になりました。

第三に、仕事を通じて社会とのつながりが保てます。人と接する機会があることで、生活に「張り」が出て気持ちも明るくなったそうです。

旅行会社「クラブツーリズム」では、「エコースタッフ」という年配の顧客約8千人が毎月、会報誌を1人250部近所に配り、4千円程度収入を得ています。金額は少ないですが、旅の話で配布先と交流でき、楽しいと評判です。

派遣会社「高齢社」では、60歳以上の約500人が登録し、さまざまな業種に派遣されています。ほかにも各自治体が運営するシルバー人材センターに登録して、仕事を見つける方法もあります。

高齢者の有業率が高いほど、1人当たりの老人医療費が低い

高齢者の有業率と一人当りの医療費

総務省統計局がまとめた資料によると、高齢者の有業率が高いほど1人当たりの老人医療費が低いようです。現役でいる方が、高齢になっても病気になりにくいことを示しています。

私が知る限り、退職後も適度に仕事を続けている人の方が、何もしていない人よりも圧倒的に健康で元気な例が多い。経済的な余裕と生活のリズム感を得て、いきいきと暮らせるからです。

私は、退職後も何らかの仕事をして、年金以外の収入を得る生活を強くお勧めします。経験豊富で体力に自信のある団塊世代の退職者は、前職時代の経験を生かして起業するのもいいでしょう。

とはいえ、サラリーマン経験しかない方が事業を軌道に乗せるのにはそれなりのコツが必要です。本連載では、定年後に、自分の身の丈に合ったやり方でビジネスを始める「身の丈起業」の秘訣(ひけつ)を順番にお話しします。

*本記事を朝日新聞社に無断で転載することを禁止します。転載希望の場合は、朝日新聞社に連絡願います。

この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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