個人的な使命の発見がモラトリアム消費からの卒業

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2007年9月21日号 日経MJ 石鍋仁美のマーケティングの「非・常識」

第一次ベビーブーマー(団塊世代)と、この世代の女性の多くが一斉に第一子を出産したことで生まれた第二次ベビーブーマー。二つの巨大な人口の塊が今、それぞれの人生のモラトリアム(執行猶予期間)を生きている。数年後、彼らがきちんと執行猶予を終わらせられるか。消費や社会問題に関心を持つ人々が注目している。

2007年も残すところ3ヵ月余りとなり「2007年問題」という言葉もすっかり聞かれなくなった。1947年に生まれた団塊世代の第一陣は今年60歳。サラリーマンなら定年だ。職場の技術者不足、オフィス余剰、地域社会への参加や復帰、田舎や都心への移住者増、巨額の退職金を手にした彼らによるぜいたく消費などの問題や現象が起こると言われた。

しかし以前この欄でも予測した通り、現実は違った。最大の理由は65歳までの再雇用制度の導入だ。では、5年以内に同じような問題が起こるのか。そうはならないし、なってはいけないと主張するのは『リタイア・モラトリアム』(日本経済新聞出版社)の著者、村田裕之氏だ。

モラトリアムとは若者心理用語で、大人になるため社会が認めた猶予期間を指す。大学生を想像すればよい。国内外のシニア市場に詳しい村田氏は、60歳から本当の引退までの数年間を、仕事人生の単なる延長ではなく「リタイア・モラトリアム」ととらえ直すべきだという。

勤務形態によっては平日の自由時間ができる。ただし収入も権限も減る。そんな数年間は、若い部下の下で我慢して働く「忍耐期間」ではなくソフトランディングヘの準備期間だとする。

まず時問などの束縛が緩くなる「解放段階」が訪れ「今までと違うこと」がしたくなる。「解放型消費」として有望なのがスポーツクラブ、ネット株取引、平日二泊三日の国内旅行や三泊四日のアジア旅行、映画など。世間体や立場から控えてきた文章、写真、音楽などの自己表現消費も盛んになる。

それだけでは満足できない人は次に「自分探し」を始める。これからの人生の「目的」を真剣に模索し始めるのだ。まず情報収集型消費が始まる。パソコンは有力商品だ。

次に文化体験型消費が続く。美術館のハシゴ客が増える。 方向が定まれは人脈拡大につながる消費行動に目が向く。一方で「一人で時間を過ごせる」場の提供も重要になる。

最終的には、個人的な使命を発見することがこのモラトリアム消費からの卒業になるというのが村田氏の見立てだ。

得意分野を生かした仕事、文化的活動など何らかの形で社会参加する「半働半遊」が本人も社会も幸せなシニアのあり方であり、完全にリタイアして毎日を遊び暮らすシニア村は、一時米国などで増えたものの、過去のものになりつつあるとしている。

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