世代特有の嗜好性をいかにして消費につなげるか?

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販促会議7月号 連載 実例!シニアを捉えるプロモーション 第五回

シニア本人の「世代特有の嗜好性」が消費行動に影響することがある。今号は「世代特有の嗜好性」を消費につなげるための勘所を整理する。

ただし、この「世代効果」だけに特化したマーケティングは必ずしも有効ではないので要注意だ。その理由は、「世代特有の嗜好性」が消費行動に反映されるのは、前回までに述べた他の要素が変化する時だからである。

1. ターゲット世代の幼少期から大学時代までの文化・世相を知る

世代特有の嗜好性の多くは20歳までの文化体験(世代原体験)で形成される。

世代原体験には食生活、文学、音楽、映画、漫画、テレビ番組、ファッション、スポーツなどがある。各世代の幼少期から20歳までの文化・世相を知っておくと当該顧客と接する時の消費行動を理解する一助になる。

  1. 団塊の世代(194711日から19491231日生、現在64歳~66歳):カレッジフォーク、ビートルズ、グループサウンズ、VAN、ジーンズ、ミニスカートなどアメリカ文化
  2. 焼け跡世代(193511日から19461231日生、現在67歳~78歳):学童疎開、火垂るの墓、闇市、国民学校、墨塗り教科書、連合国軍占領下、戦後混乱期、青い山脈
  3. 昭和一桁世代(19261225日から19341231日生、現在79歳~86歳):戦争・軍国主義・飢餓体験、価値転換、リンゴの唄
  4. 大正世代(1912730日から19261225日生、現在87歳~101歳):大正ロマン、昭和モダン、歌謡曲、洋服、洋食文化

2. 40代以降には「ノスタルジー消費」が起きやすい

ノスタルジー消費とは世代原体験が懐かしくて生まれる消費形態。復刻版CDDVD、映画のリメイクなどがこれに当たる。

映画「Always三丁目の夕日」は、昭和30年代を舞台した西岸良平の漫画『三丁目の夕日』を原作としたもので、建設中の東京タワーや上野駅、蒸気機関車C62、東京都電、ダイハツの三輪自動車ミゼットなど当時の東京の街並みを再現させたことで団塊の世代以降の世代に大ヒットした。

浅草にある「昭和歌謡コシダカシアター」は、シャボン玉ホリディなど懐かしの昭和歌謡によるショー専用の劇場で、はとバスのコースにも組み込まれ、多くの年長者が通っている。代官山の蔦谷書店には、60年代・70年代にヒットした名作映画のDVDや復刻版CDが豊富に取り揃えてあり、年長者の利用が目立つ。

ノスタルジー消費は、世代原体験後20年以上時間が経過した頃によく見られる。言い換えると当該世代が40代以降に達してから見られやすい消費形態である。

3. 50代以降には「時間解放型消費」が起きやすい

「時間解放型消費」とは、子育て終了や転勤、退職などをきっかけに時間の拘束からの解放で起こる消費形態。これには、昔やっていたことにもう一度取り組むことで自分らしさを取り戻そうとする「自己復活消費」、昔経済的・時間的理由で実現できなかったことを実現する「夢実現消費」がある。

「自己復活消費」の対象には、音楽バンド、社交ダンス、絵画、登山、写真など学生時代や20代に注力していたものが多い

日常生活では倹約気味の人でも、ギター演奏が好きでバンドに参加している人は、50万円のギターを買うことも厭わない。本格的に登山をする人は、プロ仕様の登山靴や登山用品に何十万円もお金をかける。

一方、「夢実現消費」の対象は、高級オーディオ(アナログプレーヤー、真空管アンプ、大型スピーカー)、楽器演奏、スポーツカー、ラジコン、プラモデル、ダイビング、世界一周旅行など人によって様々である。

近年のアナログレコード復興ブームは、学生時代にアナログレコードとオーディオに凝っていた人が、お金がなくて高級品に手を出せなかった人がけん引している。

企業の商品・サービスで見ると、たとえば、ヤマハ大人の音楽レッスンは、こうした夢実現消費を後押ししてくれるサービスとして根強い人気がある。また、トヨタ86は、若い頃スポーツカーに憧れていたが買えなかった人たちへの夢実現機会の提供である。

こうした「時間解放型消費」は、経済的にも時間的にも余裕のできる50代以降に多く見られる。

4.焼け跡世代より上の世代には「愛用品消費」が見られる

昔からの愛用品を今も使いたいというニーズは焼け跡世代よりも上の世代に良く見られる

大森にあるダイシン百貨店では、柳屋のポマード、丹頂チックなどの男性用化粧品(?)、黒チリ紙、和式便所のふた、ハエ取り紙などが今も生産されている限り置いてあり、常連客から好評を得ている。これらの商品の多くは、販売数量が少ないために他店ではほとんど取り扱われなくなったもの。

ところが、こうした他店にないものを扱うことで、昔からの愛用品を手に入れたいシニアのニーズに応え、逆にリピーター顧客を獲得している。時代の変化に対して「昔ながらのものを提供する」ことが、逆に差異化になるケースだ。

焼け跡世代よりも上の世代は、戦争体験という強烈な原体験がある。物の乏しい、貧しい時代を知っているので、もったいない精神が強く、安易に新しいものへ目移りをしない傾向がある。

5.世代特有の嗜好性だけで売ろうとすると失敗する

モノに対する嗜好性は、実は世代だけでは形成されない。その人の幼いころの生活環境、家族環境にも大きく影響を受ける。したがって、ターゲット顧客が団塊世代だからと言って、カレッジフォークやビートルズという切り口だけで何かが売れるわけではない。

以前、関西のある百貨店で、団塊世代を対象に前掲のノスタルジー消費を狙ったと思われる衣料品売り場があった。そこにはビートルズの赤盤(赤いLPレコード)やシングルレコードが多数飾ってあったが、売っている衣服との関係性がなく、正直「それで??」という印象が否めなかった。

また、一時、「団塊パンチ」なる雑誌が発刊されたが、これは70年代に流行った雑誌「平凡パンチ」のリバイバルであった。これもノスタルジー消費狙いだったが、長続きしなかった。

対象者が団塊世代で、若い頃ジーンズやミニスカートが好きだったからと言って、還暦を過ぎてそればかり買うわけではない。世代特有の嗜好性はマーケッターであるならば、当然知っておくべきことである。しかし、そうした知識だけでの安直なジェネレーション・マーケティングは機能しないと心得た方が良い。

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