シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第148回
私たちは何かを達成したときや誰かに褒められたとき、嬉しく感じたり、もっと頑張ろうという気持ちになったりする。
実はこういうときに、脳内の神経ネットワークに「ドーパミン」という神経伝達物質が放出され、私たちに「元気」や「やる気」を感じさせる。この神経ネットワークのことを「報酬系」という(図)。
ドーパミンは元気や、やる気の素なので、これが減ってくると、やる気が出ない、モチベーションが下がるといった無気力状態になる。こうならないための対策は、毎日の生活習慣で体内にドーパミンを増やすのが王道だ。
脳内の報酬系にドーパミンが放出されやすくなるのは、次の3つの場合
1.不確実な嬉しい出来事を期待しているとき
例えば、宝くじを買って、当たるかどうかはわからないけど、当たった場合のことを考えてワクワクしているようなときにドーパミンが放出される。
2.予期していなかった嬉しい出来事が起きたとき
例えば、宝くじが当たったとき。万馬券を取ったときもそうだ。まさか当たると思ってなかったとか、全然予期していなかったものが当たったときにドーパミンが放出される。
3.嬉しい出来事が確実に起きると予想されたとき
例えば、会社を退職して、3カ月後に念願の海外旅行に行くと決めて、すでにチケットも予約してあり、その日が来るのを待っているときだ。〝もういくつ寝るとお正月〟型ともいえる。
日常生活で「やる気」の素を「意図的」に促す方法
これらの3つを応用すると、日常生活において「やる気」の素になるドーパミンの放出を「意図的」に促すことができる。
1の「不確実な嬉しい出来事を期待する」の応用は、「目標設定型」の生活だ。実現するかどうかはわからないが、実現したら嬉しいという目標を設定した生活。つまり、明日、1週間後、1カ月後、1年後が楽しみになるような生活である。
この事例として私が講演でよく話すのが、100歳を超えても精力的に活動を続けた日野原重明先生がやっていたことだ。
日野原先生は手帳に常に5年先の予定を具体的に書き込んでいた。5年後の何月何日の何時から日比谷公会堂で自分の誕生会を全国から来た3千人の前でやる、と書くのだ。
5年先に生きているかどうかわからないけど、実現したら嬉しい。こういう習慣を続けてきたことで、日野原先生は100歳を超えても、いきいきしていた。このような「目標設定型」の生活だと、脳内の報酬系が活性化しやすくなる。
ただし、設定する目標は高すぎても低すぎてもいけない。例えば、普通の人が1年後に総理大臣になるとか、年収100億円を目指すとかいっても、現実味がない。
逆に、例えば30分後にコーヒーを2杯飲むといった、あまりにも簡単に達成できる目標も意味がない。
自分の今の能力よりやや高い水準に目標設定すると、達成のための行動が継続しやすく、達成すれば喜びは大きくなる。
具体的な日時で嬉しい近未来の予定を組む
次に、2の「予期していなかった嬉しい出来事が起きる」の応用は、「予期しない嬉しいことを与え合える人間関係」を作ることだ。例えば、普段褒められたこともない人から褒められると、「えっ?」と思わず嬉しくなる。
いわゆるサプライズもそうだ。誕生日に贈り物をもらうのはもちろん嬉しいが、それよりも、誕生日でもないのにいきなり贈り物をもらったら、もっと嬉しい。「えっ、今日はなんの日だっけ?」のような、本当の意味のサプライズが効く。ただし、これもあまり乱発するとサプライズにならなくなるので、注意が必要だ。
最後の3の「嬉しい出来事が確実に起きると予想」の応用は、嬉しいイベントの予約を入れることだ。例えば、何月何日に好きなアーティストのコンサートに行くためのチケットを買うなどだ。
重要なのは、具体的な日時で近未来の楽しく嬉しいイベントの予定を組むことだ。それが待ち遠しいほど、脳内でドーパミンが放出されやすくなる。
これらの考え方に基づいて、顧客の「目標設定」と「目標達成」を支援するサービスを商品化すれば、間違いなく顧客から求められる。少し前に話題になったライザップによるダイエット支援サービスはこの例だ。