2020年10月16日 日経MJ連載 なるほどスマート・エイジング
皆さんは新型コロナウイルス感染症の流行でテレビやユーチューブなどのネット動画視聴時間が増えていませんか?
実はテレビ視聴時には大脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)に「抑制現象」が生じることがわかっています。前頭前野は情報処理と思考の中枢であり、コミュニケーションや判断、意思決定など重要な機能を担っています。
この部位の活動に長時間抑制がかかると、活動が低下した状態が長く続くことになり認知機能の低下につながります。詳しくは以下の全文をお読み下さい。
本連載の初回でスマート・エイジング実現のためには「運動」「認知」「栄養」「社会性」の4つが必要条件だと説明した。ところが、新型コロナウイルス感染症の流行で生活スタイルが変わり、これらの条件を満足しにくい要因が増えている。
例えば「運動」の面では外出自粛により、特に中高年を中心に運動不足の人が増えている。コロナ禍で中断すると「運動しないこと」が習慣化する。特に高齢者は感染時の重症化リスクが高いとされ、外出機会が減り運動不足になりがちだ。
また「栄養」の面では、夜の外食機会が減り栄養状態が改善した人がいる一方で、在宅勤務や巣ごもり消費の増加でカロリー過多となり「コロナ太り」の人が増えている。
さらに「社会性」の面では、外出自粛で他者とのコミュニケーションが不足し、孤独感の増加やうつ病、睡眠障害の増加が懸念される。特に高齢者住宅や介護施設ではいまだに外部との接触が厳しく制限され深刻だ
一方、「認知」の面はどうだろうか。外出機会が減り、運動不足やコミュニケーション不足が認知機能の低下を促すのはもちろんだが、私が気になるのは巣ごもり生活の長期化でテレビ視聴時間が増えていることだ。
以前触れたが、テレビ視聴時に大脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)に「抑制現象」が生じることが東北大学の川島隆太教授らの研究でわかっている。この現象が生じると、前頭前野の活動量が安静時よりも少なくなる。
注意したいのは、この現象はテレビ番組の種類に関係なく生じることだ。テレビだけでなく、ビデオゲームを行う時も生じることが明らかになっている。
抑制現象が生じている場合の前頭前野は、実はリラックス状態にある。このため一日の仕事が終わった後、2時間程度視聴するのならリラックス効果として問題ない。これが一日5~6時間以上、毎日続くと弊害が出る。
前頭前野は情報処理と思考の中枢であり、コミュニケーションや判断、意思決定など重要な機能を担っている。この部位の活動に長時間抑制がかかると、活動が低下した状態が長く続くことになり認知機能の低下につながる。
さらに、懸念されるのはテレビ視聴時間に加えて、「ユーチューブ」の視聴者数と視聴時間も増えていることだ。
ユーチューブは誰かに接触せずに情報伝達・入手する手段として、コロナ禍で一人当たりの利用時間が増えた。パソコンやスマホがあれば誰でも気軽に利用できるため、新規視聴者数も急増した。
ユーチューブ視聴はテレビの視聴とほぼ同じ活動だ。このためテレビ視聴同様に、視聴時に前頭前野に抑制現象が生じると考えられる。
コロナ禍で前頭前野の活動を抑制する生活スタイル、いわば「アンチ・スマート・エイジング」が急増しているのだ。
対策としてはまず、テレビとユーチューブ視聴は、一日2時間程度にすることを推奨する。このためには本当に見る価値のあるものだけに絞ることが必要だ。幸いユーチューブには視聴時間のチェック機能がある。
次に、これまで紹介した脳のトレ―ニング(脳トレ)を一日15分程度集中して行うことだ。これにより活動量の低下した前頭前野の活動を活性化して、バランスを取ることができる。こうした生活スタイルもウィズコロナ時代のニューノーマルの一つだろう。