高齢者住宅新聞 介護保険に頼らないシニアビジネス成功の12のヒント 第9回
利用者の立場で利便性をシビアに確認
公的介護保険報酬に依存する事業の場合、行政が求める要件を満たせば、ほぼ介護報酬を得ることができた。しかし、最近の厚労省の検討状況を鑑みると、今後は事業者が提供するサービスの質が評価され、その結果によって報酬額が変わる方向にある。つまり、今後は間接的に利用者の評価を反映して保険報酬=商品の売価が決定されるということだ。
これは自費負担のサービスでは当たり前のことだが、保険報酬のサービスの世界ではそうとは限らなかった。だから、保険報酬に依存する事業者が自費負担サービスに取り組むには根本的な発想転換が必要だ。その最大のポイントは「サービス事業者の立場」ではなく、「利用者の立場」で商品・サービスの利便性をシビアに見ることだ。
かつて日産自動車が「キューブ」という小型車を売り出した時、日産のターゲット顧客は20代の若者だった。毎月の携帯電話代でクルマが手に入るというのが日産の訴求点だった。
ところが、ふたを開けてみると、50代、60代の人に結構売れたのだった。その理由はクルマの形状が角張っていて、車庫入れがしやすかったからだ。当時、車両の角が丸まったクルマが増えており、車庫入れの際にぶつけてしまう年配者が多かったのだ。
一方、総務省「通信利用動向調査」によれば、60代以上のスマホとタブレットの保有率は2011年以降毎年確実に増えてきたが、2015年に初めてスマホは65歳以上、タブレットは70歳以上で減り始めた。サービス提供側がシニアをターゲットに「らくらくスマホ」や「簡単スマホ」に相当注力してきたにも関わらず、である。
操作しにくく、不要な機能満載で通信料の高いスマホより、使いやすく、必要な機能があって通信料の安いガラケーの方が年金依存のシニア層には受け入れられているのだ。
これらのように「供給側の論理」ではなく、自社の商品シーズが「利用者の立場」で、どのような強みに見えるのかが自費負担サービスの場合、特に重要である。