日本経済新聞夕刊 2016年1月13日 読み解き現代消費
視力の衰えと高額な通信料がシニアのスマホ利用の障害となる
2012年から15年までの総務省「通信利用動向調査」を読むと面白いことに気が付く。15年は、スマートフォン(スマホ)とタブレットの保有率が高齢者の世帯で減少に転じたのだ。スマホが65歳以上の世帯、タブレットが70歳以上の世帯で初めて前年を下回った。
数年前の市場予測ではスマホもタブレットも毎年増加が続くとされ、通信事業者やメーカーがシニア向け商品の普及にかなり注力してきたにもかかわらず、減少した理由は何だろうか。
スマホ減少の第一の理由は、視力の衰えだ。高齢者向け宿泊予約サービスのゆこゆこ(東京・中央)の調査(15年10月)では、50歳以上の82%が老眼で45%が目の疲れを感じている。
さらに年齢が上がれば眼精疲労、ドライアイや白内障を患う場合も多い。スマホの小さな画面で文字を読むことや複雑な操作を嫌って利用がおっくうになるのは容易に想像できる。
第二の理由は高額な通信料が年金依存の高齢者に負担が大きいことだ。つまり、スマホは利用しづらい上に高価なので利用が減ったのだ。
タブレットの伸びはスマホにはない価値が認められているため
タブレットは状況が少し異なり、60歳代では増加傾向が続いている。これはスマホの裏返しで、画面が大きいため、文字が見やすく操作しやすいのが評価されているといえる。スマホにはない利用価値が認められているのだろう。
タブレットはWi―Fi環境のある自宅での利用が多いため、通信料はあまり気にならないという面もある。一方、70歳以上で保有率が減少したのは、スマホ同様、必要性が低いと感じる人が多いためと思われる。
高齢化率世界一の日本は、今後要介護高齢者の増加が予想される。要介護になり外出が難しい高齢者にとって、スマホ、タブレットは生活に不可欠な道具となる。通信事業者やメーカーによるさらなる使いやすさの改善・工夫が必要だ。