2020年1月15日 日経MJ連載 なるほどスマート・エイジング
コロナ渦で不眠症をはじめとする睡眠障害に悩まされる人が特に中高年で増えている。在宅勤務など生活習慣の変化、仕事や将来不安の強まりが原因と思われるが、そもそもなぜ中高年に多いのか。
睡眠ホルモン「メラトニン」が減少
第一の理由は、加齢とともに睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」の分泌量が減るためだ。メラトニンは夜になると血中で増え、体中を巡って体温を下げて睡眠を促す。
メラトニンは幼児期(1歳から3歳頃)に最も多く分泌され、思春期以降減少し、70歳を超えるとピーク時の10分の1以下になることがわかっている。
メラトニンは網膜が光を検出すると脳の視交叉上核を経て松果体に信号が伝わることで分泌される。加齢によりこの信号伝達系に「退行性変化(組織の形が変化してその働きが低下すること)」が生じるため分泌量が減ると考えられている。
メラトニンの原料「セロトニン」が減少
第二の理由は、メラトニンの原料である「セロトニン」の分泌量が精神的ストレスで低下し、メラトニンの分泌量が減るためだ。セロトニンは睡眠と覚醒に関わる神経伝達物質で、うつ病にも関係している。
中高年期には仕事や家庭のことでなにかとストレスが多い。私たちはストレスにさらされ続けると、脳内のセロトニンを含むモノアミン系神経伝達物質の代謝障害が起きやすい。
夜間に光に当たる時間の増加
第三の理由は、夜間に光に当たる時間が増えるとメラトニンの分泌量が減るためだ。多くの課題と責任を背負っている中高年期には仕事や家庭のことが気になり、夜中にもパソコンやスマホを見てしまいがちだ。SNSの普及がこの傾向にさらに拍車をかけている。
実はパソコンなどの液晶画面からは強力なブルーライトが発生している。これを夜中に浴びると太陽光線を浴びるのと似た状態となる。するとメラトニンの分泌が減るだけでなく、脳を覚醒状態にして交感神経が優位な状態になり、ますます睡眠障害を起こしやすくなる。
睡眠障害の原因はこれ以外にもあるが、メラトニンの分泌がカギであることがお分かりいただけたと思う。したがって夜間のメラトニン分泌を促すことが睡眠障害対策となる。
入眠前2時間は「リラックスモード」に
対策の一つ目は、入眠前2時間は「活動モード」から「リラックスモード」に切り換えることだ。これは寝つきをよくするための対策で、具体的には次がお勧めだ。
①仕事場とは別の場所で電球のような暖色系の間接照明で薄暗くして過ごす。②パソコン、スマホ、タブレット、テレビなどを見ない。③カフェインのない温かい飲み物を飲む。
自然な眠気は体温が下がり始めるときに起きるので、寝る前に温かい飲み物を摂って内臓から体温の上昇を促し、体温低下のリズムを作るのが狙いだ。
入眠前2時間は激しい運動をしない
対策の二つ目は、入眠前2時間は激しい運動をしないことだ。これは寝つきをよくするのと中途覚醒を起こしにくくするためだ。適度な運動により身体の疲労感があると睡眠の質が上がる。
だが入眠前に心拍数を上げた運動をすると交感神経が優位になり、体が覚醒状態となり、睡眠を妨げてしまう。ストレッチやヨガなどの軽い運動を行うのがよい。
入眠前2時間は食事をしない
対策の三つ目は、入眠前2時間は食事をしないことだ。入眠前に食事をすると、身体は消化吸収に集中することになり、睡眠時に脳や身体を休めなくなる。
どうしても夜遅く食事をする場合は、牛乳やヨーグルトなどのたんぱく質を多く含み、消化の良い乳製品を少量摂るのがよい。