ノジュール2月号連載 今日から始めるスマート・エイジング第5回
JTBパブリッシングの月刊誌「ノジュール」2月号連載「今日から始めるスマート・エイジング」、第5回のテーマは「“ちょっと高めの目標”で毎日ワクワク!」
本連載では、拙著「スマート・エイジング 人生100年時代を生き抜く10の秘訣」をもとに、主に50代・60代の方向けにわかりやすい解説を心がけます。
元気を生み出す「報酬系」と「ドーパミン」
私たちは何かを達成したときや誰かに褒められたとき、嬉しく感じたり、もっと頑張ろうという気持ちになったりします。
実はこういうときに、脳内の「報酬系(ほうしゅうけい)」という神経ネットワークに「ドーパミン」という神経伝達物質が放出され、私たちに「元気」や「やる気」「わくわく感」を感じさせます。
ドーパミンは、かつて「快楽物質」と呼ばれていました。今でもそう呼ぶ研究者もいます。しかし、報酬系に詳しい東北大学の筒井健一郎教授によれば、ドーパミンには「元気」や「やる気」、「求める気持ち」を生み出す役割があると考えられています。
どんなときにドーパミンが分泌される?
ドーパミンが放出されやすくなるのは、次の3つの場合です。
ひとつ目は、不確実な嬉しい出来事を期待しているとき。例えば、宝くじを買って、当たるかどうかはわからないけど、当たった場合のことを考えてワクワクしているようなときです。
もうひとつは、予期していなかった嬉しい出来事が起きたとき。例えば、宝くじが当たったときや、万馬券を取ったときです。まさか当たると思ってなかったものが実際に当たったときです。
最後は、嬉しい出来事が確実に起きると予想されたとき。例えば、会社を退職して、3ヵ月後に念願の海外旅行に行くと決めて、すでにチケットも予約してあり、その日が来るのを待っているときのようなイメージです。「もういくつ寝るとお正月」型ともいえます。
毎月の給料日やボーナスの支給日、年金支給日が近づいて待っているときも同じです。ちなみに、コンビニでは年金支給日が近づくと大きなサイズのアルコール飲料の売れ行きが増えるといいますが、これも同じです。
日常生活でのドーパミンの増やし方
これらの原理を応用すると、日常生活において「やる気」の素になるドーパミンの放出を「意図的」に促すことができます。
そのひとつは「不確実な嬉しい出来事を期待する」の応用で「目標設定型」の生活をすることです。実現するかどうかはわからないが、実現したら嬉しいという目標を設定した生活。つまり、明日、1週間後、1ヵ月後、1年後が楽しみになるような生活です。
例えば、聖路加国際病院の名誉院長、故日野原重明先生は手帳に常に5年先の予定を具体的に書き込んでいらっしゃいました。5年後の何月何日の何時から日比谷公会堂で全国から来た3千人と自分の誕生会を祝う、と書くのです。
5年先に生きているかどうかわからないけど、実現したら嬉しいことです。こういう習慣を続けてきたことで、日野原先生は100歳を超えても、いきいきしていました。
こうした「目標設定型」の生活だと、脳内の報酬系が活性化しやすくなります。ただし、目標設定のコツは、今の自分の能力より「少しだけ高い」水準にすることです。高すぎても低すぎてもいけません。
例えば、普通の人が1年後に総理大臣になるとか、年収100億円を目指すとかいっても、現実味がありません。逆に、30分後にコーヒーを2杯飲むといった、あまりにも簡単に達成できる目標も意味がありません。
自分の今の能力よりやや高い水準に目標設定すると、達成のための行動が継続しやすく、達成すれば喜びは大きくなります。
もうひとつ、目標設定は「具体的」にすることが重要です。「近い将来にどこか美しいところに行く」という漠然としたものはダメです。
例えば「来年の2月10日にウィーンの楽友協会大ホールでウィーンフィルのコンサートを聴く」のように、具体的ではっきりした目標にすることが肝心です。
また、設定する目標は「達成したら嬉しい、ワクワクする」ものが重要です。設定する目標が義務的なもので、達成しても楽しくない「ノルマ」だと逆にストレスを感じ、報酬系は活性化しません。
達成すると嬉しい目標とご褒美を作って毎日に生きるハリアイをつけましょう。