シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第154回
「自分軸」で生きるには「自分ミッション」を持つ
前回の説明の通り、「自分軸」で生きるとは、「会社の基準」ではなく「自分の基準」を中心にして生きるということだ。
したがって「会社の基準」において「会社ミッション」が重要だったように、「自分の基準」においても「自分ミッション」が重要になる。
会社ミッションとは、例えば「わが社はお客様に最高品質の商品をお届けする」といったものだ。
会社ミッションは、その会社が果たすべき使命であり、存在意義である。自社は何のために存在するのかをはっきりさせるのが会社ミッションの狙いだ。
これにならえば、自分ミッションの狙いは「自分は何のために存在するのか」をはっきりさせることになる。ここで問われるのは「あなたは、自分が何のために存在するのか」がはっきりしていますか、ということだ。
会社軸で長く生きていると、この本質的な問いに対する答えも仮説もないまま、漫然と毎日を過ごしがちだ。すると、定年退職して会社軸がなくなったあとは、さらに輪をかけて毎日を漫然と過ごしてしまう。
かつて、私の以前の職場の先輩が、こうした生き方を「成り行き型の生き方」と言っていた。自分で主体的に生きているようで、実はすべてを会社や他人などの自分以外の成り行きに任せている。こういうタイプの人がサラリーマン退職者に非常に多いとその先輩は嘆いた。
したがって、「自分軸」で生きるためには、まず「自分ミッション」を持つ必要がある。それも、会社の退職後ではなく、退職前のなるべく早いうちに決めておくのが望ましい。
「自分ミッション」というと大仰な感じがする人もいるだろう。しかし、そんなに難しく考える必要はない。要するに、自分は残りの人生でいったい何をしたいのか。なぜ、それをしたいのか。それにはどういう意味があるのか。こうしたことを言葉で整理することだ。
一方、「俺は退職したら自分の好きなようにのんびり過ごしたいんだよ」という人もいるだろう。しかし、「自分の好きなように過ごす」という場合、自分の好きなことがはっきりしている場合はよいが、そうでない場合は意外に難しい。
「就社型」キャリアアップの問題は?
「自分ミッション」を決めたら、次にやるべきことは、そのミッションを達成するための力をつけること。つまり、経験・キャリアを積むことだ。ここでサラリーマンをやりながらのキャリアの積み方についてお話しする。
高度成長期から現代に至る従来のキャリアアップの多くは「就社型」だった。学校を出て社会人になることを一般に「就職」というが、多くの場合実際は「就社」だった。
従来の「就社型」キャリアアップは、入社してから定年までおおむね一つの会社・組織に勤めるキャリア形成のことだ。社内のさまざまな部署に異動していくうちに昇格して肩書がつき、給与も上昇していくものだ。
会社に長くいると不本意な仕事も多く、その会社にいるのが嫌になることもある。しかし、そのうち出世や昇給があるならば、我慢して勤め続けることができた。
また、定年時には多額の退職金も得られた。退職後には国民年金に加え、厚生年金や企業年金、それまでの貯蓄などで比較的保証された老後のイメージを持つことができた。
ところが、先ほどの「さまざまな部署に異動していくうちに昇格して肩書がついて」も、実はそれは社内での肩書の変更に過ぎない。肩書が上がっても実力も上がっているかどうかは人による。それは退職後に別の職場に行くとすぐわかる。
シニア人材の派遣会社に100人のシニア人材の登録があったとすると、そのうち実際に派遣されて働ける人は1割ほどだ。
しかも、そのうちの多くは3カ月で派遣先から戻ってくる。理由は派遣先企業から「要らない」といわれるからだ。
派遣先での業務に対応できないにもかかわらず「俺の前いた会社では、もっと優れた方法でやっていた」などと上から目線の人が多いそうだ。「会社軸」で生きてきた人には以前の勤務先での「社内慣行」が染みついているからだ。
現役社員のうちに「自分軸」を確立して「会社軸」からのソフトランディングを行うことが望ましい。
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