朝日新聞 2015年6月22日 なるほどマネー Reライフ 人生充実
事業を継続するための実践的な「4つの心得」
定年後に、自分の身の丈に合ったやり方でビジネスを始める「身の丈起業」。今回は起業後に事業を継続するための実践的な心得についてお話しします。
1.情報発信に注力する
起業後は顧客開拓が極めて重要だと繰り返しお話ししてきました。そのためには情報収集が重要です。勉強会や異業種交流会などに顔を出すことも大事ですが、情報収集の最も効果的な方法は、実は情報発信です。
なぜなら、情報は発信している人に集まるからです。ある情報が欲しければ、関連する情報を逆に「発信」するのが効果的です。WEBサイト、ブログ、メールマガジン、SNSなどを駆使して情報発信に注力しましょう。
2.ニッチな分野でも独自性をもち、必要とする人に伝える
情報発信で重要なのは、他では入手しにくい独自の情報を発信することと、読み手が読みたくなる内容にすることの2点です。要はターゲットとする読み手(潜在顧客)にとって役立つ内容で独自性のあるものにすることです。
「これだけ情報が氾濫(はんらん)しているなかで、他にない独自の情報発信なんて難しい」と思われるかもしれません。しかし、これまで長年経験を積んできた仕事や、好きで何年も取り組んでいることをテーマにすれば可能です。巨大市場を狙う必要はありません。ニッチな分野でもその独自性を必要とする人に伝われば、顧客はついてきます。
3.会社組織での階層的な行動原理を捨てる
会社組織は「階層的な関係性」で動いています。そこでは上司に対しては自分が部下であることを理由に責任回避ができました。部下に対しては自分が上司であることを理由に仕事を依頼できました。
「部長」「課長」という肩書があることで、なんとなくその肩書にふさわしい能力を持っているような気になり、安心できました。階層的な関係性で動く会社組織は非常に便利です。
しかし、退職するということは、肩書がなくなることを含め、こうした「便利さ」からの決別を意味します。これが、長年「便利さ」に慣れ親しんだサラリーマンにとって最初に直面する大きな戸惑いとなります。
NPOの活動に加わりたいといって、退職者が門をたたいてきたものの、評判が悪い例が散見されます。「威張りたがる」「過去のやり方に固執する」「人に言われないと動かない」というのが理由の上位です。これらはサラリーマン時代の行動原理に慣れきったことの弊害です。こういうアカはできるだけ早い時期に落としましょう。
4.フラットな関係性での協働に慣れる
退職後の身の丈起業で必要なのは、会社時代のような階層的な関係性ではなく、肩書が効かない「フラットな関係性」において円満な協力関係を構築できる力量です。
互いの役職ではなく、互いの「尊敬」「共感」でつながるということが大切になります。つまり、過去の肩書や学歴ではなく、1人のビジネスパーソンとしての力量、人間力が問われます。
だからといって、腰を引くこともないでしょう。会社の看板ではなく、自分の看板で勝負する。これは実はとても爽やかな世界ではないでしょうか。
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