シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第125回
米国の代表的女性誌が「アンチ・エイジングの終わり」を宣言
米国の女性向け美容・ファッション雑誌「Allure(アルーア)」は、最新の9月号で「アンチ・エイジングという言葉をもはや使わない」と宣言した。アルーアは2011年に発行部数が100万部を超えた代表的女性誌。女性の美容、ファッション、健康分野に強い影響力をもつ。
ハフポスト電子版によれば、同雑誌のミシェル・リー編集長は、このような宣言をした背景を次のように説明する。「加齢についての考え方を変えるための最初の一歩は、加齢についての語り方を変えることです。そのために、私たちは今月号から『アンチ・エイジング』という言葉を使わないことに決めました」
「私たちは、『加齢とは、闘わなければいけないもの』というメッセージを密かに助長しています。抗不安薬やアンチウイルス・ソフトウェアや、防カビスプレーのように」
さらに、リー氏は「年齢を重ねるということは、新しい日を迎え人生を楽しむ機会が増えるチャンスが増えるということ」と言いながらも、加齢が必ずしも素晴らしいことばかりでもないとも認めている。
ただ、若くなければ美しくない、人生にはピークがあってそこを過ぎれば後は転がり落ちるだけという考え方を止めたい、だからアンチ・エイジングという言葉は使わないと訴える。
日本におけるアンチ・エイジングの概念は、元々米国からのものだ。いわば「言い出しっぺの米国」の代表的女性誌が「アンチ・エイジングはやめる」と宣言したのは画期的と言えよう。
一般の米国人の加齢観は遅れている
一方で、私はこれを知って「米国もようやく当たり前のことに気がついたか」という感じだ。周知のとおり、私は10年前の2007年から従来型の加齢観ではなく、超高齢社会に相応しい加齢観として「スマート・エイジング」を提唱してきた。
その概念は、2009年設立の「東北大学スマート・エイジング国際共同研究センター」に具現化され、さらに本年4月には「スマート・エイジング学際重点研究センター」に改組され、超高齢社会の課題解決のためのフロンティアとして進化し続けている。
しかし、実は米国でも心ある人達は10年前からアンチ・エイジングに異を唱えていた。私の友人でマーケッターとして有名な故デイビッド・ウルフは、自著「エイジレス・マーケティング」で「アンチ・エイジングという考え方は年齢差別主義の最たるもの」として厳しく批判していた。
多様な民族、人種からなる米国では、あらゆる差別主義が存在する。それと同等に差別主義に反対する人達も存在する。アンチ・エイジングは年齢差別主義の象徴であり、誤った考えだと考える良識派は米国にも存在していたのだ。
古い加齢観は一部業界によるプロパガンダが理由
にもかかわらず、アンチ・エイジングという概念が米国ではびこり続けてきた理由は何か。
それは米国の一部の製薬業界、化粧品業界、ファッション業界、広告代理店、メディアが、若者は年寄りよりも美しく優れている=アンチ・エイジングが好ましい、というプロパガンダを強力に推進してきたからだ。
そして、日本の多くの化粧品業界、ファッション業界、広告代理店、メディアも米国発のトレンドとして鵜呑みにし、同様にプロモーションしてきたのが実態だ。
日本人の「盲目的欧米追従」も終りにすべき
かつて、司馬遼太郎は「この国のかたち」(文春文庫)のなかで「日本人は、いつも思想はそとからくるものだとおもっている」と友人の言葉を引用している。開国以来、低成長期に入るまで盲目的な欧米の模倣が日本の近代化の拠り所だった。
しかし、超高齢社会という側面で世界の先頭を走る日本には、明らかに欧米以上の知見がある。アルーアの「アンチ・エイジング終焉宣言」と共に、日本人の「盲目的欧米追従」も終りにすべきだ。