「世代特有の嗜好性」とシニアの「愛用品消費」

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シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第103回

歌手やタレントは世代イメージのサンプルにしない

人数の多い団塊世代が2015年には65歳以上になり、いわゆる高齢者の仲間入りをした。

「団塊世代は、上の世代よりも若々しく活動的で消費行動が異なる」などとしばしば言われる。確かに、小田和正(1947年9月20日生)、井上陽水(1948年8月30日生)、矢沢栄吉(1949年9月14日生)、松崎しげる(1949年11月19日生)といった歌手やタレントを見ていると従来の高齢者というイメージが当てはまらない。

しかし、こうした他人の目にさらされる仕事に就いている人たちは、いろいろと工夫して年寄り臭く見えないようにしているのであって、団塊世代のなかでも特殊なサンプルと見るべきだ。これらの人たちを基準に「団塊世代とはこんなイメージだ」と見なしてしまうと市場を見誤ってしまう。

ターゲット世代の「世代原体験」を知る

ある世代特有の嗜好性と消費行動との関係を知るためには、「世代原体験」が影響を及ぼす消費行動について理解することが必要だ。「世代原体験」とは、特定の世代が幼少期から、おおよそ20歳前後までに共通に体験する文化の体験をいう。これには食生活、文学、音楽、映画、漫画、テレビ番組、ファッション、スポーツなどさまざまある。

次に示す各世代の幼少期から20歳までの文化・世相を知っておくと、当該顧客と接する時の消費行動を理解する一助になる。

1. 団塊の世代(1947年1月1日から1949年12月31日生):カレッジフォーク、ビートルズ、グループサウンズ、VAN、ジーンズ、ミニスカートなどアメリカ文化
2. 焼け跡世代(1935年1月1日から1946年12月31日生):学童疎開、火垂るの墓、闇市、国民学校、墨塗り教科書、連合国軍占領下、戦後混乱期、青い山脈
3. 昭和一桁世代(1926年12月25日から1934年12月31日生):戦争・軍国主義・飢餓体験、価値転換、リンゴの唄
4. 大正世代(1912年7月30日から1926年12月25日生):大正ロマン、昭和モダン、歌謡曲、洋服、洋食文化

このような世代原体験が、齢を重ねてからの消費行動に影響を与えることがある。本連載第75回で「ノスタルジー消費」、「時間解放型消費」について解説したので、今回は別の話をする。

焼け跡世代より上の世代に見られる「愛用品消費」

昔からの愛用品を今も使いたいというニーズは、焼け跡世代よりも上の世代にしばしば見られる。

東京・大森にあるダイシン百貨店では、柳屋のポマード、丹頂チックなどの男性用化粧品、黒チリ紙、和式便所のふた、ハエ取り紙、二槽式洗濯機などが今も生産されている限り取り揃えてあり、常連客から好評を得ている。これらの商品の多くは、販売数量が少ないために他店ではほとんど取り扱われなくなったものだ。

ところが、こうした他店にないものを扱うことで、昔からの愛用品を手に入れたいシニアのニーズに応え、逆にリピーター顧客を獲得している。時代の変化に対して、「昔ながらのものを提供する」ことが、逆に他店との差異化になるケースである。

焼け跡世代よりも上の世代は、戦争体験という強烈な原体験がある。物の乏しい、貧しい時代を知っているので、もったいない精神が強く、安易に新しいものへ目移りをしない傾向がある。

売れ筋商品がリピート客の理由とは限らない

こうした人たちは「昔ながらのもの」を買いに来るのが来店目的になるが、来店すれば、「せっかく来たのだから、この際にもっと買っておこう」という気になり、「ついで買い」をする傾向が強い。

コンビニでは、POSデータで売れ筋以外の「死に筋」、つまり売れない商品は、1週間もすれば棚から外されてしまう。店舗面積が35平方メートルから50平方メートルと限られているので、店舗効率を上げるためには仕方がない。

これに対して、ダイシン百貨店の場合、リピート客が繰り返し来店するのは、売れ筋商品を買うのが目的ではない他店にはない、そこにしかない商品を買いにくるのが目的なのだ。

だから、一般のスーパーやコンビニのようなPOSデータ上の売れ筋商品を並べても顧客が繰り返し来店する理由にはならない。短期的な店舗効率の向上よりも、長期的な顧客との信頼関係維持を重視している。

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