平均寿命100歳時代の「住まい方」に求められる条件とは

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2008年8月8日 朝日新聞

平均寿命100歳の時代には、「住まい方」にも「健康」「お金」「生きがい」をサポートする機能やサービスが当然求められる。では、平均寿命100歳時代の「住まい方」に求められる条件とは何か。それは前述の「健康」「お金」「生きがい」を支える、次の5つの問いに応えるものであるはずだ。

問1:その住まいには「要介護状態になりにくい生活環境」を支えるサービスがあるか?

日本の既存の有料老人ホームや特養の大半は、要介護状態の人に対する介護サービスは備えているものの、そもそも「要介護状態になりにくい」生活環境を積極的に実現しているものは、ほとんど見当たらない。

ところが、シニア住宅先進国のアメリカでは、カレッジリンク型シニア住宅という形態で、高齢の入居者が大学の若い学生と大学キャンパスや住宅で共に勉強や娯楽を楽しみ、生活している例がある。入居者は通常の高齢者施設の入居者よりも見た目も若々しく、いきいきとしており、生活満足度も高くなっている。

注目すべきは、入居者の要介護率が極めて低いことが報告されており、若い世代との知的な交流の多い生活環境が脳機能や心身に良い影響を及ぼすためと考えられている。入居者にとって要介護率の低下は、他人の世話になる期間が短くなることを意味し、自立的な生活を望む国民性に合致する。

また、国による介護保険制度がないアメリカでは、要介護率の低下は介護費用の削減を意味し、住宅事業者にとって経営的に有利となる。

一方、アメリカと違い日本には国による介護保険制度があるので、このような仕組みは不要、と思われるかもしれない。しかし、今後の高齢者人口の増加見通しと少子化による社会保障予算の逼迫をかんがみれば、日本でもますます要介護人口を減らす方向に行かざるを得ない。

つまり、「要介護状態になりにくい生活環境」を支援するサービスは、日本でも入居者と住宅事業者の双方にメリットのある合理的な仕組みになっていく。

問2:その住まいには同一敷地内に専用の介護施設があるか?

最近、「高齢者向け分譲マンション」「シニア向け分譲マンション」と銘打ったものが増えている。しかし、こうしたマンションのほとんどが同一敷地内に介護施設を持っておらず、しかも介護サービスの提供は外部の介護施設や介護サービス業者との提携となっている。

このような形態においては、いざ、入居者が介護を必要とした場合、提携先の介護施設に空室がある場合のみ、入居を斡旋するというものがほとんどで、介護施設への入居の権利がないのが実態だ。

実はこうした傾向はシニア住宅先進国のアメリカでも同じだった。前述のカレッジリンク型シニア住宅でも、当初はまだ介護が不要で元気な人向けの住宅だけで開所する例が多く見られた。

ところが、開所3、4年後にはこれらの施設でも介護施設を新たに併設した。理由は入居者から「介護施設を併設して欲しい」と強く要請されたためだ。

販売時の価格を安く抑えるために、「介護施設を併設せず」に開所している所は、課題の先送りをしているだけで、後になってツケが回ってくると思ったほうがよい。

問3:その住まいには入居時に一時金を払ったら自分の資産になる仕組みがあるか?

日本の有料老人ホームで広く普及している「終身利用権方式」は、昭和48年に当時の厚生省がアメリカに倣い「ゆうゆうの里」で採用したのが始まり。この方式が日本でも適用できると思われたのは、次の仮説があったからだ。

すなわち、①日本の人口は今後も増え、経済成長が続き、年金財政は安定的に続く、②日本人は60歳でリタイアし、平均余命20年つまり平均寿命80歳で概ね亡くなる、という仮説である。

ところが、アメリカで「終身利用権方式」が成立するのは、インフレ率が高いため、毎月払う月間費を毎年値上げできるからなのである。これに対し、日本ではインフレ率も低く、年金支給額の増額は到底望めないため、月間費の値上げは不可能だ。

加えて、当時の予想に反して少子化が進み(図表4)、年金財政は逼迫、制度は混乱し続けており、①はもはや成立しない。また、②は前述のとおり、今後20年間で平均寿命が100歳に達する可能性が大きくなり、もはや成立しない。

アメリカの模倣から始まった終身利用権方式は、もはや日本の経済環境で維持するのは困難になっている。高額の入居一時金を払っても入居者の資産にならない、一時金は15~20年で償却され償却後の返却金はない、入居者の事業者に対する担保力が弱いという終身利用権方式は、事業者側の論理が強く、事業者と入居者側の双方にメリットのある仕組みが望まれる。

問4:その住まいには資産価値を目減りさせない工夫があるか?

利用権方式では、事業者の本音は入居者の回転率を上げること、つまり、入居一時金の償却が終わったら、なるべく早く施設を出てもらい、新しい入居者を獲得することなる。

したがって、事業者は施設建設費用を必要最小限度にとどめようとする。このため、年数が経過すると施設は急速に老朽化し、資産としての価値は低下しやすい。

一方、所有権をもち、自分の資産としての住まいであるならば、その資産価値をなるべく目減りさせたくないはず。シニア住宅先進国のアメリカでは、住宅価値の7割は土地ではなく、家屋の価値である。使用されている材質や建築デザインなどで中古販売の際の価格が決まる。

今後日本でも所有権方式のシニア住宅が増える場合、資産価値を目減りさせない工夫がどれだけ施されているかが重要になってくるはずだ。

問5:その住まいには好きなことに没頭できる生活環境があるか?

「いきがい」とは「生きる目的」とも言えるが、これは人によってさまざまであり、住宅事業者が提供できるものではないだろう。

しかし、たとえば、「自分の好きなことに没頭できる」「気の合う仲間が大勢いる」「若い人との交流が頻繁できる」などの生活環境がある住まいであるならば、自ずと「いきがい」も見つけやすくなるのではないか。こうした工夫をどれだけ施しているかが長い人生をいきいきと過ごすために大切だ。

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