ニッチ市場を「ビッグ・ニッチ」に変える方法

新聞・雑誌

2009年11月20日 日経懇話会会報Vol.124 連載 シニアビジネス豊国論 第2回

経営者の「マス・マーケット志向」が最大の壁

企業が団塊・シニアビジネスに取り組む際の最大の壁は、経営者にマス・マーケット志向の強い人が多いことである。このため、体力勝負志向で取り組み方が荒っぽくなる傾向がある。たとえば、すぐにマス広告(テレビコマーシャル、新聞一面広告など)を打ちたくなり、やたらと広告宣伝費を掛けたがる。

ところが、拙著「シニアビジネス」等で何度も述べているように、団塊・シニア市場は、マス・マーケットではなく、「多様なミクロ市場の集合体」である。このため、マス広告で実際に訴求できるのはターゲット顧客の一部である。だから、このやり方はコストパフォーマンスが悪く、期待する成果が上がらない。

さらに、こうしたマス・マーケット志向の強い経営者は、「ニッチ市場」を軽んじる傾向がある。「ニッチ市場」、つまり「すきま市場」なんて、小さすぎて手間とコストがかかり、所詮ビジネスにはならないと思っている経営者が多い。

ところが、現実に団塊・シニア市場で業績を伸ばしている企業は、多くの企業が避けている、そうした「ニッチ市場」から参入して成長している。  

中高年女性専用フィットネス最大手「カーブス」の創業者ゲイリー・ヘブン氏は、市場参入当初、多くの人に次のように言われた。「中高年女性相手のフィットネスなんて特殊な市場はやめたほうがいいよ。中高年のおばさんたちは、わがままで、うるさくて、価格への要求も厳しくて、絶対うまくいかないよ」と。

しかし、今では、全世界四六か国で一万店舗以上を開設し、400万人以上の中高年女性が利用する世界最大のフィットネス・チェーンとなった。日本でも09年9月末現在、766店舗、約27万人が利用し、事業開始後わずか4年余りで、店舗数で日本一、世界第二位の規模となっている。 

一方、日本を代表する企業がニッチ市場に参入し、団塊・シニアビジネスとして大成功した例がある。それはNTTドコモの「らくらくホン」だ。

99年9月に市場参入してから当初の2年間の出荷台数が20万台程度。当時すでに6千万人規模だった携帯電話市場からすれば「超ニッチ市場」であった。売上規模から見れば若年市場が倍々で伸び続けていた時代であり、事業担当者は、社内でも肩身の狭い思いをしながら細々と事業を続けていた状態だ。

ところが、03年頃から、じわじわと出荷台数が伸び始め、第三世代であるFOMAが登場した04年下半期から、また伸び始めた。さらに、07年から従来型になかったお洒落な「らくらくホンベーシック」やワンセグなどの機能を満載した「らくらくホンプレミアム」などを相次いで投入した結果、急速に市場が拡大していった。「らくらくホン」は、09年6月末現在で累計1587万台を突破する大ヒットとなっている。

「ミクロ市場」を定義し、商品化する工夫が必要

では、ニッチ市場から参入すれば誰でも成功できるのかといえば、そんなことはない。そこには工夫が必要だ。最も大切なのは、中高年の多様な価値観による「ミクロ市場」を定義し、商品化する工夫だ。

「らくらくホン」の場合は、06年上期頃の機種は実は三種類しかなかった。この機種数で今後も十分なのか、不十分なのか。もし、不十分ならば、どういうデザインの機種をいくつ追加すればよいのかという疑問が湧いた。それまで何となくわかっていた気になっていたシニア市場をもう一度徹底的に研究し直した。

その結果、シニア市場は世間で言われているような一様なマス・マーケットではなく、いくつかのミクロ市場の集合体であることがはっきりしたのである。これがわかれば後は定義されたミクロ市場に応じて商品を設計すればよかった。

初めはニッチ市場に見えても、多くのニッチ市場をつかむことができれば、それは、「ビッグ・ニッチ」に変わるのである。そして、目の肥えた日本の消費者に評価された商品は、海外からも注目を浴びるようになる。

タイトルとURLをコピーしました