カレッジリンク型ホームは老後を変える

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2004年10月17日  新潮社フォーサイト11月号 Foresight Style

人生のスタート地点・大学と終着地点・老人ホームが結びつき新しい商品が生まれている

人生のスタート地点である大学と終着地点のような老人ホーム。米国では、一見、相容れないこの二つが結びつくことで、まったく新しい商品が生まれている。「カレッジリンク型」と呼ばれる老人ホームだ。マサチューセッツ州ニュートン市の「ラッセル・ビレッジ」もその一つ。併設する大学、ラッセル・カレッジの敷地内にある。

「大学キャンパスにビレッジがあるという発想はとても魅力的。若い人たちが周りにいることが大切。ほとんどの老人ホームは若い世代から隔離されている」  

と言うのは入居者のグロリア・トーマスさん(六七歳)。入居者は、年四五〇時間以上のクラス参加が義務づけられている。この時間数は、ラッセル・カレッジの生徒とほぼ同じ。つまり、六五歳から九五歳までの入居者は、大学生並みにクラスに参加する必要がある。にもかかわらず、二〇〇〇年五月の開設と同時に定員二一〇人が満員、一四〇人以上が、今も入居待ちという大ヒット商品となった。

入居者は若い学生とのクラスに参加、学生の相談役にもなる

入居者は、ビレッジ独自のクラスに加えて、学生との共同クラスにも参加できる。一方、学生に対する相談役になることも多い。若い世代から刺激を受けながら、自分の人生経験が役立つのが嬉しい。

一方、フロリダ州ゲインズビルの「オーク・ハンモック」は、隣接する州立のフロリダ大学と包括的な提携関係をもつ。米国の州立大学は、日本でいえば国立大学のような存在。競争が激しい米国では、国立大学も例外ではない。

「ここのクラスは本当に幅が広く、刺激的です。文学、歴史、コンピューター、哲学、法律学など何でもある。大学の現役教授や退官教授のほか、我々入居者も講師役になるのです」

こう強調するのは、デイビッド・ランドル氏(六五歳)。入居者自身が自分の専門性や経験を活かせ、学生からも感謝される。

米国で、カレッジリンク型が増えている理由とは

なぜ、いま、カレッジリンク型が増えているのだろうか。利用者側の理由は、平均寿命が延び生活水準も上がったことで、高齢になっても知的刺激や社会的つながりを求め、積極的なライフスタイルを選ぶ人が増えたことだ。

一方、提供者側の理由は、老人ホーム市場が過当競争に入り、商品の差別化が必要になってきたことが大きい。多様化が進む入居者のニーズに応える方法が、カレッジリンク型なのである。

また、大学にとってのメリットも大きい。入居者は、しばしば多額の寄付をしてくれる。さらに、連邦政府が老年学分野の研究を奨励し、老人ホームと連携する大学は研究費を得やすい。米国以上に高齢化が深刻なわが国に本来必要な施策だ。

ラッセル・ビレッジ入居者の平均年齢は84歳、要介護の人は一人もいない

だが、何よりも注目すべきは、カレッジリンク型の入居者が、実年齢よりも一〇歳から一五歳程度若々しく見え、驚くほどいきいきとしていることだ。

ラッセル・ビレッジ入居者の平均年齢は八四歳だが、要介護の人は一人もいない知的刺激が多く、地域社会に開かれた生活環境が、寝たきり老人を作らない何よりの証拠である。

こうしたカレッジリンク型の話を筆者がすると、「日本と市場環境が違う米国だからできるのではないか」と言う人がいる。だが、これは明らかに違う。

「開所6年前に、この考えを提案した時、多くの人に『絶対にうまくいかない』と口をそろえて言われた」ビレッジのポーラ・パンチャック施設長は感慨深げに語る。

カレッジリンク型はわが国こそ普及・発展させるべきもの

日本の大学は、少子化で年々生徒が減少し、質の高い学生の獲得競争が激しくなっている。一方、独立行政法人化の動きで、市場原理に従った合理的な経営が求められている。

カレッジリンク型は、高齢化・少子化・大学経営の合理化という課題を抱えるわが国こそ、米国と異なる市場環境も踏まえ、普及・発展させるべきものだ。

かつて老人ホームは、米国では「陸の孤島」、日本では「姥捨て山」と揶揄された。カレッジリンク型は、「姥捨て山」を「智恵の泉」に変え、「老人ホーム」という名称すら、似つかわしくないものに変えていくだろう

「未来を予測する最良の方法は、それを創ること—」パーソナル・コンピュータの父、アラン・ケイが語ったこの言葉が、日本での実現に向け、筆者の心を突き動かす。

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