日本経済新聞夕刊 11月28日
年をとって涙もろくなったのを感受性が豊かになったと思うのは勘違い
日本経済新聞夕刊に私への取材を基にした記事が掲載されました。少し補足すると、記事中「RAM(随時書き込み読み出しメモリー)にあたる記憶機能」とあるのは「作動記憶(ワーキングメモリー)」機能のことです。
また、「記憶能力の拡張には『脳に負荷がかかる計算』などが役立ち」とあるのは、作動記憶量を拡大するには、「スパン課題」と「Nバック課題」が役に立つということです。
「スパン課題」とは、例えば、数字を1、7、8、2……5と一つずつ見せたり聞かせたりした後に、覚えた数字をそのまま提示した順番で答えてもらったり、見たり聞いたりしたものとは逆に答えてもらったりする課題です。
一方、「Nバック課題」とは、連続して情報が提示されている最中にN個前に提示された情報を思い出して回答してもらう課題です。
例えば、数字を、1、7、8、2……5と一つずつ見せたり聞かせたりしている最中に、2バック課題では3番目に8が出てきた瞬間に、その2つ前に出てきた数字である1と答え、4番目に2が出てきたときには、同じくその2つ前に出てきた数字7と答えます。これを連続して行います。
実際にやってみると脳にかなりの負荷がかかることを感じますが、これが作動記憶容量の拡大につながることが東北大学の研究で明らかになっています。以下、記事内容の抜粋です。
「年をとって涙もろくなったことで、感受性が豊かになったと思うのは大きな勘違い」。高齢化社会について研究する東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターの村田裕之特任教授は指摘する。
「涙もろい」も「キレやすい」も脳の機能の衰えが原因
「涙もろい」も「キレやすい」も、感情抑制が効かないということでは同じ。実は、脳の機能の衰えが原因という。
脳の機能は、20歳で成長が止まり、その後は低下する。しばらくは年齢とともに蓄えられる知識や経験などでカバーしているが、衰えがてきめんに現れるのは50代だ。
では、どのように脳を鍛えれば感情を抑制できるのか。そのヒントは人間の脳の構造にある。
記憶や学習、感情の抑制などをつかさどるのは、頭の左前側にある大脳前頭葉の「背外側前頭前野」と呼ばれる部位だ。コンピューターでいうCPU(中央演算処理装置)にあたる処理機能と、RAM(随時書き込み読み出しメモリー)にあたる記憶機能を担う。
村田特任教授によれば、処理能力を上げるには「文章を手で書く」「大きな声で音読する」ことや「簡単な計算を素早く解くドリル」などが有効だ。一方、記憶能力の拡張には「脳に負荷がかかる計算」などが役立ち、ゲーム感覚でこなせるアプリも販売されている。
脳トレの効果をあげるにはコツがある。易しすぎでも難しすぎでもダメで、自分のレベルよりも少しだけ難しい課題に取り組むことが必要だ。
体つきの変化など一目で成果がわかる筋トレと異なり、脳トレの効果はなかなか見えにくい。しかし、機能を向上させるための秘訣は同じ。村田特任教授は「脳トレも筋トレも、最適な負荷をかけながら継続的に続けることできちんと効果が出る」と話している。