なぜ、中年期以降になるとよく眠れなくなるのか?

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メラトニン血中濃度の年齢変化

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第150回

夜の時刻情報の伝達物質「メラトニン」とは?

体内時計の調節と睡眠の質に重要な役割を担っているのがメラトニンというホルモンだ。メラトニンは内分泌腺の一つである脳の「松果体」から分泌される。松果体は目の網膜が受ける光の量の情報に基づき、メラトニンの分泌量を決定する。

目に入る光の量が減るとメラトニンの分泌が始まり、光の量が増えるとメラトニンの分泌を止める。つまり、夕方暗くなってから出始め、暗い間は出続け、明るくなると出なくなる。

このように夜だけ血中のメラトニン濃度が上昇するため、メラトニンには「夜の時刻情報伝達物質」としての役割がある。メラトニンが血中に放出されると脈拍、体温、血圧が下がり、睡眠の準備ができたと体が認識し、睡眠に向かわせる効果がある。

寝るときに部屋を暗くするとメラトニンの分泌量が高まるが、時間帯によってその量は変化し、夜中の3時から4時ごろがピークになる。人にもよるが、この時間帯に起きているのは体の生理に反しているわけだ。

逆に日中に強い光を浴びると、メラトニンの分泌は減少する。毎朝、太陽の光を浴びて規則正しい生活をすると、メラトニンの分泌の時間や量が調整されて、体内時計が機能する。

一方、不規則な生活や昼間に太陽の光を浴びない生活を続けると、夜間にメラトニンがうまく分泌されず、睡眠障害の原因となる。

なぜ、中年期以降に睡眠障害の人が増えるのか?

ところで、なぜ、中年期以降になると睡眠障害に悩まされる人が増えるのだろうか。これには次の3つの理由が考えられる。

第一の理由は、加齢とともにメラトニンの分泌量が減るためだ(図)。メラトニンは一般に幼児期(1歳から3歳頃)に最も多く分泌され、思春期以降減少し、70歳を超えるとピーク時の10分の1以下になる。

メラトニンは、網膜が光を検出すると、脳の視交叉上核を経て、松果体に信号が伝わることで分泌される。メラトニンの分泌量が減るのは、加齢によってこの信号伝達系に「退行性変化(組織の形が変化して、その働きが低下すること)」が生じるのが原因と考えられている。

第二の理由は、ストレスによるセロトニンの分泌量の低下に伴い、メラトニンの分泌量が減るためだ。中年期には仕事や家庭のことで多くのストレスがかかる。私たちはストレスにさらされ続けると、脳内のセロトニンを含むモノアミンの代謝障害が起きる。

メラトニンはセロトニンを原料として松果体で合成されるので、セロトニンの分泌量が減るとメラトニンの分泌量も減ることになる。

第三の理由は、夜間に光に当たる時間(光暴露時間という)の増加により、メラトニンの分泌量が減るためだ。多くの課題と責任を背負っている中年期には仕事や家庭のことが気になり、ついつい夜中にもパソコンやスマホを見てしまいがちだ。

夜型生活とIT機器利用の増加が睡眠障害のもと

フェイスブックやツイッター、LINEといったSNSの普及がさらにこの傾向に拍車をかけている。なかには寝床に入ってからスマホをいじる人も少なくない。こうした行動が夜間のメラトニン分泌量を減少させ、睡眠障害の原因となる。

この理由は、パソコンやスマホ、タブレットなどの液晶画面から強力なブルーライトが発生しており、これがメラトニン分泌を抑制するためだ。また、蛍光灯からもブルーライトが発生する。特に白色のLED照明からのブルーライトは強力でメラトニン分泌を抑制する。

こうしたブルーライトを夜中に浴びるということは、夜中に太陽光線を浴びるのと似た状態だ。ということは、メラトニンの分泌が減るだけでなく、夜中に脳や体を「覚醒状態」にして交感神経が優位な状態になり、ますます睡眠障害を起こしやすくなってしまう。

このような夜間の光暴露時間の増加は、中年期の仕事と家庭の条件に加えて、スマホやSNSの普及など情報化社会の進展といった生活環境の変化も大きな原因だ。

以上の3つの理由以外に、中年期にはうつ病による睡眠障害などもある。認識すべきは、中年期以降に睡眠障害が起きやすいのは、単に「歳をとったから睡眠力が落ちたのだ」というほど単純ではなく、それなりの理由があることだ。

したがって、こうした背景、メカニズムをまず理解することが睡眠障害を解決する糸口になる。

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この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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