日経消費ウォッチャー 2012年3月号
さる2012年1月16日に日経東京本社で開催された日経消費経済セミナーの講演録(抜粋)が掲載されました。以下、その内容です。
アジアは非常に広範囲で、日本以上に複雑で多様だ。やみくもに進むと落とし穴が多い。高齢者市場の規模をつかむには、高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)、高齢者の絶対数、ニーズの有無、所得を考慮する。平均所得だけでなく、所得格差も考える必要がある。では、ターゲットにすべき国・地域を分類してみよう。
香港とシンガポールに危機感
まず香港とシンガポールは少子化の進展が早く、危機感が強い。高齢化率は日本の半分程度だが、1人当たりのGDPが高く、所得格差が大きい。アッパーミドルと富裕層がターゲットになる。大多数の中間層は公営の超高層ビルに住むため、日本食の高級イメージを生かした食事の宅配サービスが考えられる。階下に小型スーパーやコンビニも求められる。
次に韓国。高齢化率は日本の半分だが、所得格差は日本と同じくらいで1人当たりGDPは日本よりも少し落ちる。つまり、アッパーミドルに日本と同様のお客さんがいる。ソウル周辺に居住する高齢者が大切だ。台湾も大体同じ。
第三に中国。高齢化はまだそれほどではないが、人数が多い。所得水準は全体的に低く、ごく一部の金持ちがいる。一人っ子政策で世帯当たり人数が減り、親の面倒を見きれない家庭が増えている。 ターゲットの1つは都市部の富裕層で、中国にはない上質なものを持っていけば売れる。
欧米型のリタイア・ビレッジも登場しているが、アジアの文化とは必ずしも合わない。もう1つは都市部のミドル。この領域には公的サービスがあるため、その付加価値を上げましょうと言って、皆さんの会社の商品を売る。中国政府・自治体とパイプがある香港・シンガポールの有力企業と組むといい。
インドとインドネシアには高齢者の数は多いが、高齢化率が低く、所得水準も低い。ターゲットになるとすれば、ごく一部の富裕層。タイとマレーシアは相対的に若いが、外国人をターゲットにしたリタイアメント産業が発展している。向こう3年ぐらいは両国に来る日本人や外国人を狙った方がビジネスになりやすい。
日本のノウハウ生きる
高齢化は日本が断トツに進んでいるので、日本のノウハウが売りになる。日本の経験の1つは、年を取ると身体が変化し、いろいろ出て来る需要を具体的に知っていること。例えば、ジム、老眼鏡、補聴器、白髪染め、差し歯、歩行器などだ。世界共通の需要で、あとはどのタイミングで投入するかを考えるだけだ。
ライフステージの変化でも需要が発生する。大きいのは退職だ。時間からの制約がなくなり、旅行に行く。自分の好きなこと、例えば「おやじバンド」を始めたりする。その次は自分探し消費。自分の生きがいは何か、残りの時間をどうしようという自分探しで、パソコンなどの情報収集ツールが必要になる。その次に人脈拡大型消費。ブログなどを使って自分の特技を情報発信する。町内会への参加、ボランティアの参加もある。
介護事情の違いを考慮
家族のライフステージの変化に伴う需要で重要なのは親の入院・介護。アジアの介護市場の留意点は、国・地域で社会保険制度が異なること。日本市場は基本的に介護保険報酬で成り立っているが、日本以外のアジアで公的介護保険があるのは韓国だけ。それ以外は基本的に自腹。日本のマーケットの感覚で商品・サービスを持っていっても成功は難しい。
日本の強みは、多様性のあるマーケットに対して粘り強くきめ細かに商品開発、そして品質管理ができることだ。日本で培った商品販売や運営のノウハウは間違いなく生きる。