百貨店や大型スーパーはなぜ苦戦するのか?

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Clinic ばんぶう4月号連載 データから読むイマドキ「シニア」の実態第9回

被服および履物費がシニアでは激減する

百貨店や大型スーパー(業界用語でGMSと呼びます)の苦戦が続いています。百貨店については、数年前に中国人観光客が買い物目的に大量に押し寄せた、いわゆるインバウンド消費に支えられた時期は神風が吹いたように売り上げが伸びました。

しかし、ブームが去ると以前のように業績悪化が目立つようになっています。一方、GMSに至っては、インバウンド消費の恩恵すらなかったため、業績悪化が止まりません。こうした大型小売店苦戦の根本的原因は何でしょうか?

第2回で触れましたが、毎月の消費支出は一般に、50歳以降では年齢が上がると共に減少します。しかし、費目毎に見ると、減少するもの、増加するもの、変わらないものがあります(図)。

支出が減少するものの代表は「被服および履物費」です。1世帯あたり1ヶ月間の消費支出は、50代では12,541円ですが、60代では8,998円、70代以上では6,455円と50代の約半分に減ります。

60代以降に被服および履物費が減る大きな理由は定年によって仕事を辞めることです。男性は会社勤めのときに必要だったスーツ、シャツ、ネクタイ、靴への支出が、退職すると激減します。

第4回で触れたとおり、退職後男性の6割強が「自宅ひきこもり派」になります。つまり、外出機会そのものが減るので身づくろいに関わる出費が激減します。女性の場合は、男性ほどではありませんが、仕事を辞めて外出機会が減るとやはり被服・履物への支出は減ります。

にもかかわらず、多くの百貨店やGMSではいまだに衣服売場が売り場面積の大半を占めています。少し前まで流通・小売業では「55歳以上をシニア」と定義する例がよく見られました。

この理由は、流通・小売業界では、長年主要ターゲット顧客を、主婦を中心とする「19歳から54歳」までのファミリー層と定めており、それ以上の年齢層はひとくくりにシニア層と扱ってきたことによります。

高度成長期に業容が拡大したスーパーマーケット、ダイエーのかつてのキャッチフレーズは「主婦の店 ダイエー」でした。このキャッチに、この業界の主要ターゲット顧客に対する見方が示されています。しかし、人口動態のシニアシフトで退職したシニア人口が増えているわけですから、いつまでも高度成長期の売り場構成のままでは、消費者からそっぽを向かれるわけです。

前掲のとおり、逆に50代以降年齢とともに増える出費の代表は「保健医療費」です。百貨店やGMSはもっとこの分野の売場構成、品ぞろえを充実しないとシニア客を逃がすことになるでしょう。

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