日本経済新聞夕刊 2017年3月23日 読み解き現代消費
日経夕刊の連載コラム「読み解き現代消費」に『キレる高齢者 脳トレで感情抑えて』を寄稿しました。
「読み解き現代消費」は、毎週木曜日、気になる消費トレンドについて、その背景などを読み解くコラムです。私も執筆者の一人に名を連ねており、一か月半に一度のペースで寄稿しています。以下に全文を掲載します。***********************************************************************
最近、涙もろくなったと訴える中高年が多い。「朝のテレビドラマを見ると感情移入しやすいのか、必ず涙ぐむの」と話すのは川越市の主婦、山本直美さん(66)。「先日映画を見たら冒頭から涙があふれ出て、最後まで止まらなかった。年を取ったら感受性が豊かになったみたい」。横浜市の会社員、小林孝子さん(55)もこう振り返る。
高齢者だけでなく、50代からも似た話が出るのは意外に思えるが、年を取ると涙もろくなるのは、感情移入しやすくなったのでも、感受性が豊かになったのでもない。大脳の中枢の機能低下が真の理由だ。
「背外側前頭前野」と呼ばれる部位が脳全体の司令塔となり、記憶や学習、行動や感情を制御している。涙もろくなったのは、この部位が担っている感情の抑制機能が低下したからだ。
最近は「キレる高齢者」も目立つ。携帯電話店で若い店員に突然怒鳴り始めたり、駅や病院で暴言を吐いて乱暴に振る舞ったりする高齢者を時々見かける。2016年版『犯罪白書』によれば、20年前と比べて高齢者の「暴行」は49倍に増加している。
こうした「暴走老人」の増加も、背外側前頭前野の機能低下により、感情を抑制できない高齢者が増えたためだ。この部位の中核機能の一つに「作動記憶」がある。これは短時間に情報を保持し、処理する能力で、その容量は加齢とともに減少する。これが感情の抑制機能を低下させるのだ。
高齢になって涙もろくなる人と怒りっぽくなる人には共通の背景があることを、中高年の方には知っていただきたい。
東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターでは民間企業と共同で、この作動記憶容量を増やすトレーニング手法を開発、商品化している。このトレーニングを続けると記憶容量が増えるだけでなく、感情を抑制する力も強くなることがわかっている。
「キレる高齢者」になりたくなければ、作動記憶量の脳トレをお勧めしたい。