広がる介護の保険外サービス

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山口新聞 8月10日

ヘルパーが自宅内を片付け

介護事業者が保険外のサービスに力を入れ始めた。国が公的介護保険の対象範囲を狭める中、利用者のニーズに応えられなくなり、事業も先細りになるとの懸念があるからだ。保険で認められない自宅内の片付けなどの家事サービスを充実させたり、高齢者向け施設で野菜を販売したりといった動きもある。

東京都内の都営住宅に住む 和子(かずこ)さん(85)=仮名=は自分では片付けられない荷物の整理のため、整理収納アドバイザーの資格を持つヘルパーを自費で頼んでいる。

「私の身長に合わせて、布巾掛けの位置を低くしたり、テーブルを選んだりしてもらったのよ。本当に助かっています」と満足そうだ。

利用料金は1時間当たり3600円。割安とは言えないが、近所に住む長女(57)は「介護保険では限られたことしか頼めない。物につまずいてけがでもしたら、もっとお金がかかる。安全に暮らしてもらうには必要な出費」と話す。

公的保険では、訪問介護のヘルパーの仕事内容には制約がある。家具の移動や修繕、窓ふき、家全体の掃除、草むしりなどは給付の範囲外だ。

和子さん宅にヘルパーを派遣するNPO法人グレースケア機構(東京)には、ほかにも「医療的ケアができる」「ITに詳しい」といった専門ヘルパーがいる。 柳本文貴 (やぎもと・ふみたか) 代表は「経済的に余裕がある人だけが利用しているわけではない。自費サービスで自宅に住み続けることができるなら、高いとは言えないのでは。ヘルパーのやりがいや給与アップにもつながる」とメリットを強調する。

介護保険は利用者が増え続け、2013年度に保険から支払われた費用は、制度が始まった00年度の2・6倍の8兆5千億円に膨らんだ。費用抑制のため、軽度者の利用が制限され、事業者への報酬は15年度に2・27%引き下げられた。

こうした中、大手介護事業者のニチイ学館(東京)は03年から保険外の家事サービスを開始。やさしい手(東京)も、見守り事業を基本に公的保険を補完するサービスを充実させる方針だ。

高齢者施設には産直市場も

介護以外にサービス範囲を広げる事業者もある。新潟医療生協(新潟市)は移転した病院の建物を利用し、13年に多世代交流施設「なじょも」をオープンした。

デイサービスセンターやサービス付き高齢者住宅に加え、地元の野菜や果物を販売する産直市場も備え、診療所や大浴場、学童保育スペースなどが同じ敷地内にある。

デイサービスに訪れたお年寄りがついでに食料品の買い物もできると好評で、近所の人も利用する。担当者は「心掛けているのは3年に1度の介護報酬改定に左右されない事業所づくり。利用者が必要なものを提供していきたい」と話している。

価値あればお金を払う

介護保険外のサービスについては、専門家の間で将来の市場拡大を予測する見方が強い。

日本総研の 斉木大 (さいき・だい) シニアマネジャーは「自己負担1割(一定以上の所得者は2割)の公的介護保険に比べれば、確かに10割負担は高いが、利用者は料金だけでサービスを選んでいるわけではない」と指摘する。お金を払う価値があると思えば払う人はいるからだ。「保険外サービス市場が広がれば、価格の適正化や職員のモチベーションを上げることも期待できる」

シニア市場に詳しい東北大の 村田裕之 (むらた・ひろゆき) 特任教授は「介護事業者は今後、介護保険の制度改正に合わせて事業内容をその都度変えていくか、保険外サービスに活路を見いだすか、選択を迫られることになる」とみている。

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