朝日新聞 2015年6月8日 なるほどマネー Reライフ 人生充実
身の丈起業が米国の50~60代に増えている
「これまで長い間、大きな組織で、他人のために仕事をしてきました。これからは、自分のために働く自由が欲しかったのです」。こう語るジョン・スミスさん(57)は、28年間勤めた大手金融機関を辞め、金融アドバイザーとして独立起業しました。
といっても社員はスミスさん1人。スミスさんのように大企業を辞め、起業して働き続ける身の丈起業が米国の50~60代に増えています。
米国ではごく一部の職種を除いて定年がありません。定年は年齢による雇用の差別とされ、法律で禁じられているからです。また、日本のような終身雇用制度もありません。ある程度会社勤めをした後、独立起業する人の割合が高く、特に50~60代で身の丈起業する人が多くいます。
近年の傾向は、それまで勤務していた大手企業を退職して、独立した元サラリーマンが増えていることです。
世界最大の高齢者NPO、AARPの調査によれば、ベビーブーマー(1946年から64年生まれ)の8割は65歳を過ぎても働きたいと考えています。サラリーマン退職者の身の丈起業が増えているのには、こうした背景があります。
身の丈起業という働き方にどんなメリットを感じているのか
起業した人たちは、サラリーマンと比べて身の丈起業という働き方にどんなメリットを感じているのでしょうか。
「自分で選択したプロジェクトを仕事にできる自由があります。顧客のためのプロジェクトでも、自分が面白いと納得して仕事ができます。大組織では必ずしもそうはいきません」。
こう語るのは、大手広告会社で上級副社長まで勤めた後、1人でPR会社を立ち上げたポール・ウォーカーさん(59)。
ウォーカーさんと先のスミスさんに共通するのは、会社の都合ではなく、自分の意思でやりたいことを選べる「自由」を重視していること。それが仕事への「納得感」となることです。自由を大切にする米国人らしいですが、日本人にも共感する部分が多い気がします。
身の丈起業には、メリットもデメリットもあります。大企業に居残り続けるか、それとも身の丈起業を選ぶかは、結局個人の選択です。
日本では起業というのは、一般にリスクが高いと思われています。ましてや、定年前後の年齢で起業するのは、それなりの資金と共に、相当な覚悟が必要だというイメージがあります。
身の丈起業でむしろリスクが低くなっている人が多い
ところが、身の丈起業した人たちを見ていると、逆に自分の生き方を自分で決定できることで、むしろリスクが低くなっているように見えます。
先のスミスさんはこう語っています。「大企業を辞める前は、いろいろと不安もありました。でも、起業してみると意外に何とかやれるもんなんです。むしろ、組織に頼らなくなってからの方が、自分自身や自分のビジネスについて、以前より深く考えるようになりました」
65歳まで今の会社に居続けるとしても、その後の生き方をどうするかという課題は必ずついて回ります。自分の好きなことをしたいと思うならば、なるべく早いうちに始めた方がよい。米国の身の丈起業者を見ているとそんな声がたくさん聞こえてきます。
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