「健康」と「目標」があれば老後は豊かにできる

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リベラルタイム4月号 特集「富の世襲」への反逆

人生の後半生においては、経済格差と人生の豊かさとは必ずしも結びつかない

中表紙

この特集では恐らく私以外の方は、経済格差に焦点を当てた論考が多いだろう。しかし、私が知る限り、人生の後半生においては、経済格差と人生の豊かさとは必ずしも結びつかない。もちろん、ある程度の金は必要だが、金を多く持っていることが必ずしも後半生の豊かさに結びつかないのだ。

たとえば「不幸な老後」の対語を示すのであれば、「幸せな老後」となる。しかし、何を以て幸せな老後かというのは人によって様々である。

とはいえ、長年に渡り多くのシニア層と関わってきた筆者の経験から「幸せな老後」を過ごしている人には、“金以外に”次の条件を満たしている場合が多い。

1. 自立して活動できる身体の健康を維持している

2. 退職後も何らかの仕事をして年金以外の収入がある

3. 誰かに必要とされ、誰かの役に立っている

4. 実現したいことがあり、具体的な目標がある

老後の「幸せ」とは

幸せな老後の条件として、まず、要介護・寝たきり状態にならず、自立して活動できる身体の健康を維持することが挙げられる。たとえ長生きをしても、要介護や寝たきり状態で常に誰かの世話にならなければ生きていけない状態ならば、幸せな老後とはいい難いからだ。

1を見ると要介護率は75歳を過ぎたあたりから急に上昇し、85歳を過ぎると要介護率は459%、つまり半分近くが要介護状態になる。厚生労働省のデータによれば、要介護になってからの期間が3年以上の人が6割、5年以上の人が4割、10年以上の人も2割いる。

これで誰に一番負担がかかるかといえば、介護する人、つまり多くの場合家族である。だから、できるだけ要介護・寝たきり状態にならないようにすることが必要だ。

2を見ると要介護になる原因の一番目は「脳卒中」、二番目が「認知症」である。三番目の「廃用性症候群」とは外出が少なく運動量が少ないことで筋肉が衰える症状である。四番目の「関節疾患」は運動器障害と呼ばれる。運動器とは、体の運動にかかわる骨、筋肉、関節、神経などの総称である。また、「骨折・転倒」は、運動器障害や筋力低下の結果、起こる。

このように要介護・寝たきり状態になる原因の約75%は、脳と運動器に関わるものだ。ということは、これらを健康に維持できれば、寝たきりになるリスクを減らすことができる。

「生活リズム」が大事

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退職後も何らかの仕事をして年金以外の収入を得ている人は幸せな老後を過ごしている場合が多い。

高齢になると一人暮らしが多くなる。何もやることがなく、家の中にこもっていると、何かにつけ後ろ向きになりがちである。これを防ぐには、仕事をして年金以外の収入を得るのが一番だ。

仕事をして年金以外の収入を得られると何がいいのか。第一に、生活に余裕が出る。旅行に行ったり、孫にプレゼントをあげたり、といったことがしやすくなる。第二に、生活にリズムが出る。

徳島県上勝町で「葉っぱビジネス」に取り組んでいるお年寄りたちは、仕事がなかったときには、毎日やることがなく、家でだらだらテレビを見ていたり、ごろごろ寝ていたりする時間が長かったという。

しかし、葉っぱビジネスに参加するようになってからは、毎朝決まった時刻に起床し、その日の作業の段取りを考え、優先順位を決めてから取りかかるという「仕事のリズム」のある生活になった。仕事を通じて社会とのつながりが保て、生活に「張り」が出て、気持ちも明るくなったそうである。

上勝町には2200人あまりが住んでいるが、寝たきりの方はゼロ。高齢者医療費も徳島県内で最低水準とのことだ。高齢者も働き続けたほうが健康になることを証明している。

後半生になると配偶者や友人・知人の死別などで孤独になりやすい。身体的には人に頼らず自立しているのが良いが、周囲に友人・知人もいないで一人孤独なのは、一般には幸せな老後とは言い難い。

誰かに必要とされている、あるいは誰かの役に立っている人は幸せな老後を送っていると言える。たとえ収入は得られなくても、誰かの役に立つことで収入以上のものが得られることは多々あるからだ。

アメリカの心理学者ジーン・コーエン氏は、自身が実施した数多くの退職者インタビューで「あなたにとって、人生の意味や目的を感じさせてくれるものは何ですか?」という質問に対して、あらゆる人が「他人の役に立つこと」と答える、と語っている。それも収入のレベル、人種、文化的背景に関係なく、あらゆる人が、である。

何か恩返しをしたいという衝動は特に人生の後半になって強くなる。なぜなら、その時期には自分の死を考え、年をとることに伴う困難に直面することで、価値観が変化するからだ。

コーエンの研究によれば、ボランティアなどの方法で社会に「恩返し」をした人たちは、退職後の生活に最も満足しているグループと重なっている

逆に退職後の生活で最も不満を抱える人たちは、現役時代に卓越したキャリアを築いていたのに、退職後にそれに匹敵する充実感を得られない人たちだそうだ。

具体的な目標を持つ

福岡県のある特別養護老人ホームの入居者の女性が99歳で生まれて初めて英語の勉強を始めた。彼女は「最初はABCOneTwoThreeを習っただけで満足でした。そうしたら、だんだんと欲が出て、ほかの単語も習うようになりました。だって、一つ習ってわかるようになるとうれしいじゃないですか。今は動物や食べ物や乗り物とかの英単語を毎日10個ずつ覚えているんです」と話していた。

ここで注目したいのは、彼女が100歳までに100の英単語を覚える」という具体的な目標を決めていたことだ。そうすることで、日々の生活に張りやリズムが出て、思考が前向きになり、潜在能力が発揮されやすくなるのだ。

だから、小さくてもよいので明確な目標を設定して何かに取り組むことが大切だ。具体的な目標を持つという行為そのものが重要なのである。そして、少しでも目標に向かって前進した、効果が出たということが自覚できると、さらに頑張ろうという気持ちが湧いてくるのである。

最初に要介護・寝たきり状態にならないことが幸せな老後の条件と書いた。しかし、たとえ要介護状態になったとしても、やる気になれば幸せな老後を送ることはできるのだ。

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