40代を過ぎたら決断のために大切なことは何か?

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2009年5月3日 月刊ビジネスデータ 特集 40歳から活きるオトナの脳力

「不況に打ち勝つ成熟した思考法を身に着ける」をテーマに、月刊誌では珍しく6000字を超える大特集の寄稿依頼を受けました。そのうち最終章の全文を掲載します。

「精神的な不快感」を安易な割り切りだけで解決し続けると「成熟した思考力」が身につかない

私たちは、本来、質問に対する答えは白か黒、イエスかノーであることを好みます。しかも、なるべく早く、明確な答えが欲しい。無回答に比べれば、何らかの答えがありさえすればいいと思いがちです。

曖昧、不確実、矛盾といった状態は居心地が悪く、辛くてたまりません。私たちはほとんどの場合、無意識に「認知的不協和」、つまり欲求や考えや信条の対立により生み出される内なる不快感を避けようとします。

現下の景気は、「100年に一度の大恐慌」「10年続く未曽有の不景気」などと言われ、いつ回復するのかの兆しも見えません。私たちは、こうした先行きの見えない不確実な状況が長く続くのが精神的に辛いため、取り組みかけたプロジェクトを中断したり、事業そのものを止めたり、従業員を解雇したり、転職したりして当面の難局を乗り切ろうとしがちです。

しかし、この「精神的な不快感」を安易な割り切りだけで解決し続けると、実は先に述べた「成熟した思考力」を身につけることができません。なぜなら、こうした思考力は、一見矛盾に満ちて解決策がないように見える難題を、時間をかけて問い続けることで初めて身につくものだからです。

つまり、難題を解決する思考力とは「30分でわかる弁証的思考法」の類の書物を読んだから身につくものではないのです。本稿で紹介した三つの思考法を知識として習得しても、それで日々の事業における問題が解決できるわけではありません。

思考法とは、物事を解釈するときの手段に過ぎません。思考法という手段を駆使して、現実に目の前に直面している課題解決のために悪戦苦闘する以外に、前述の「成熟した思考力」を身につける術はないと腹をくくるべきです。

不景気の時の方が、好景気の時よりも人も企業も成長する

不景気の時の方が好景気の時よりも人も企業も成長すると言います。なぜなら、不景気の時の方が好景気の時よりも真剣に考えるからです。

名経営者と言われる人は、例外なく、不景気のどん底での決断を経て、経営者として成長しています。以下は、出光興産創業者である出光佐三が、第二次世界大戦終戦後の廃墟から立ち上がった昭和21年6月に行った訓示での言葉です。

終戦直後、私は店員を馘首しない事を言明した。終戦により大東亜地域における出光の全事業は消滅したのである。内地の石油業は石油配給統制会社に取り上げられて、形ばかり残っているに過ぎない。八百の店員に職を与えねばならぬ。学校を出て直ぐ入営して今日に及んでいる人だけでもやめてもらったらという説が出たのも無理はない。大部分を退店さすのが常識と思う。然るに私をして軽々と全店員をやめさせないと言明さしたのは勿論大家族主義にもよる事であるが、その実店員諸君が私の口を借りて自ら言明したと見るべきである。すなわち人の力である。私は事もなげに出光の復興を信じていた。これは合理的熟考の結果でなくして即興の直感が私をかく言わしめたのである。私の心の底に潜在している人の力に対する信頼感がかくせしめた。

決断の拠り所は思考法ではなく、思考という行為の結果、決断する人の心の姿勢

本稿では論理的思考の限界を突き破る三つの非論理的思考を紹介した。しかし、それすら実は合理的思考の枠を超えていない

合理的思考でも解決できないことを決断しなければならないのが経営である。その決断の拠り所は、思考法ではなく、思考という行為の結果、決断する人の心の姿勢なのである。

60年以上前に語られた言葉だが、混沌とした現在に生きる私たちが勇気づけられる言葉であり、決断という行為の際に最も大切なことを示している言葉ではないだろうか。

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