居心地のよい空間、悪い空間 シニアの消費拡大のための方策

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SC JAPAN TODAY10月号 特集 居心地のよいSCとは

ショッピングモール、センターの専門誌SC JAPAN TODAYの最新号特集「居心地のよいSCとは~売上げアップの鍵は滞留時間増~」に寄稿しました。拙稿のタイトルは「居心地のよい空間、悪い空間~シニアの消費拡大のための方策」

ここ数年、多くのショッピングモールが新設されていますが、どのモールを見ても金太郎飴のように似たようなテナント構成になっています。

シニアシフトの進展により50代以降は衣料品や履物への消費が減っていくにも関わらず、依然として衣料品がテナント構成の中心になっている点が気になります。

成熟経済、モノ余りの時代には単に商品を並べているだけでは売れません。とりわけ従来のGSM(イトーヨーカ堂やイオンのような総合スーパーマーケット)に多く見られる平場の売り場に商品を展示するスタイルでは消費者の買う気が起きません。

本稿を参考に、人が心地よく商品を買いたくなるために何が必要かを理解して頂ければと思います。以下に記事の一部を掲載します。

平場のラウンジが居心地の悪い脳科学的理由

04年に上梓した拙著「シニアビジネス 多様性市場で成功する10の鉄則」で「退職者のための第三の場所」の例として、シカゴにあるマザー・カフェ・プラスを取り上げた。それ以降、多くの企業が、このマザー・カフェ・プラスを真似して「○○カフェ」や「××サロン」を立ち上げてきたが、ことごとく苦戦した。苦戦理由の1つは、シニア向けカフェを平場のラウンジにしてしまうことにある。

平場のラウンジがダメなのは、広いスペースを使う割に、収益源が少ないからだ。それ以上に重要な理由は、そもそも平場のラウンジには人が集いにくいからだ。なぜ、平場のラウンジに客が集いにくいのか。脳科学の知見がその本当の理由を教えてくれる。

(中略)

脳科学の知見が居心地の良い空間設計に役に立つ

こういう原理がわかると、逆に居心地の良い空間をつくるにはどうすればよいかがわかる。例えば、シニアに人気のコメダ珈琲は、ボックス型に区画が仕切られており、山小屋のような雰囲気で空間に凹凸が多い。凹凸が多いと、隠れたり寄りかかったりする場所が増えて落ち着くのと、話し声が適度に吸収・拡散しやすくなり、話しやすい。こういう空間は居心地がよい。(写真1)

丸亀製麺で有名なトリドールが運営するコナズ珈琲は「ハワイの休日をイメージ」したアットホームな雰囲気が人気だ。コメダ珈琲のようにボックス型に区画が仕切られていないが、多くの植栽やハワイアングッズが空間に凹凸をつくり、長居をしても違和感がない。各テーブルに天井からぶら下がった白熱灯風の照明が、空間の凹凸感をさらに増している。(写真2)

珈琲豆と輸入食品を扱うカルディコーヒーファームも独特の凹凸感をもつ人気店舗だ。店のディスプレイは緩やかな曲線状になっており、かつ天井に近い高いところまで商品が陳列されている。(写真3)曲線を多用した店舗デザインは西洋の図書館をイメージしたとのこと。スーパーやドラッグストアなどに多い直線的なディスプレイと異なり、買い手である人間との心理的距離感が近くなり、思わず手に取って見たくなる空間だ。

これらの店舗の設計者が脳科学的な知見をどれだけ持っていたかは知らないが、こうした理屈を予め知っていると、設計における試行錯誤の幅が少なくなり、商品・サービス開発が効率的になる。高齢者施設においても認知症の人が居心地の良い空間をつくれば、介護従事者の負担が減る。つまり、要介護者・介護従事者双方にとって有益になる。

(中略)

コト消費型のモノ消費ショップ

ここ数年小売業において重要視されているのは「コト消費(時間消費)」を「モノ消費」に結びつけることがある。次に取り上げるのは「コト消費型のモノ消費ショップ」。これは、モノ消費の店に回遊型時間消費の要素が入ったものだ。つまり、単にショップに行って必要なモノを買うだけでなく、その場で回遊して見ていると、買う気をそそられて思わずモノを買ってしまうショップのことだ。

ニューヨークやコネティカット州に「スーパーマーケットのディズニーランド」と呼ばれるところがある。ステュー・レオナード(Stew Leonards)というスーパーらしくない名前のこの店の売りは、選び抜かれた良質の食料品と楽しく買い物できる工夫にあふれていることだ。

(中略)

成功するシニアビジネスの教科書
SC JAPAN TODAY(日本ショッピングセンター協会)

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