超高齢社会をビジネスチャンスにする発想

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講談社 現代ビジネス 716日 磯山友幸「経済ニュースの裏側」

60歳以上の金融資産は482兆円

ついに、国民の4分の1が高齢者という超高齢化社会に突入した。総務省が発表した201310月時点の人口推計によると、65歳以上の高齢者(老年人口)の割合は数値を公表し始めた1950年以降、初めて25%を超えた。

指摘されるように「稼いで支える人」が減り、「支えられる高齢者」が増えるのは事実だが、一方で日本の高齢者層が多くの資産を持ち、購買力を維持し続けている現実もある。

シニア層を経済の中にどう位置づけるべきか。「企業にとって高齢化はむしろチャンスだ」と語るシニアビジネスの第一人者、村田裕之・村田アソシエイツ代表に聞いた。

日本社会の高齢化がいよいよ本番を迎えています。

村田 高齢化は問題点が常に指摘されます。医療や年金の制度がもたないという危機感が語られます。それはもちろん事実なのですが、一方で、60歳以上のシニア層が日本の金融資産の大半を持っているというのも現実です。

個人金融資産は1500兆円あるとしばしば指摘されますが、事業性資金が含まれているなどかならずしも実態を示していません。私の試算では60歳以上が持つ正味金融資産は482兆円です。それでも大きな金額です。

その482兆円の3割に相当する146兆円が消費に回ったらどうでしょう。国家予算はざっと100兆円ですから、それを上回るお金が市場に出て来るわけです。1割でも48兆円ですから、下手な公共事業よりもはるかに大きい。経済へのインパクトは大きいのです。 

そうした可能性を持つシニア向けの商品やサービスを企業がいかに開発していくか。そうした企業の開発を行政がどうサポートしていくか。これが重要になってきます。

厳しいシニア客が若い従業員を鍛える

シニアビジネスが重要だということですね。

村田 私は、シニアビジネスはシニアのためだけではない、と言っています。預金として眠っているストックが経済活動に回ることで、そこで雇用が生まれ、給与が増えていく。その恩恵を受けるのは若い世代です。ですからシニアがおカネを使うようになれば、健全な形で所得移転が進むわけです。

シニアがおカネを使わずに資産を持ち続けても良い事はありません。財産を残して相続ということになれば、相続する子どもの間でケンカが始まるのが常です。あるいは子どもがおらずに相続権者がいなければ、国庫に行ってしまうだけです。

高齢者が高額のおカネを貯めていれば、オレオレ詐欺などのターゲットになる。騙されるくらいならば、ちょっと贅沢な良いモノを買うのも悪くない、そんな風潮が広がって欲しいものです。

シニアビジネスが若い人のためになる、というのは面白い視点です 

村田 金銭面だけではありません。最近の若い世代は、なかなか企業の中で鍛えられる機会が減りました。ひと昔前の年功序列が当たり前の時代には、社内で先輩にこき使われながら成長した。それが最近ではパワハラに厳しくなり、それに耐えられる若手も減っています。

ところが、シニアビジネスの現場では面白い事が起きています。若い社員がシニア客に鍛えられるのです。何せ今の高齢者世代、とくに団塊の世代と呼ばれる層の人たちは、ビジネスに一過言ある。商品やサービスに対してものすごく厳しい層です。できの悪い商品や不満足なサービスに出会うと容赦なく文句を言います。

私が関わっているカーブスという中高年齢向け女性専門ジムでも、運動しに来ている客に、若いインストラクターがビシビシ厳しい事を言われて涙しています。

それで何くそと思って頑張ると、「あなたのおかげで体重が減ったわ、体調も良いわ」などと感謝される。そこで再び涙しているのですが、要はシニア客が若い従業員を育てるということが起きているのです。

 高齢者には「使いやすい」おカネがある 

村田さんはこれまでもシニアビジネスに関する本を何冊もお書きになっていますが、最近、『成功するシニアビジネスの教科書』(日本経済新聞出版)を上梓されました。シニアを巡る「俗説」と「真実」を対比して説明している点など面白いですね。

村田 大いなる勘違いがはびこっています。「シニア層は他の年齢層よりお金持ちである」というのは一見本当のようですが、真実は「シニア層は他の年齢層よりも資産は多いが、所得が少ない」ということです。

金融資産はあっても毎月入ってくるのは年金ぐらいだからです。シニア層の日常消費は試算ではなく所得にほぼ比例するので、資産があるからと言って贅沢をするわけではないのです。そんなシニア層がどんな時におカネを使うのかをきちんと分析して戦略を立てることが企業にとって重要なのです。

アベノミクスによって高額品消費が増えていますが、高齢者もかなり高額品を買っているようです。

村田 資産はあってもそれが直接消費に結びつくわけではないのですが、高齢者にとって「使いやすいおカネ」というのがあります。保有している株式が上昇して手にした売却益とか、投資の配当といったものです。

アベノミクスが始まった昨年前半は株価が急上昇しましたが、それと機を一にして老人ホームが結構売れました。これも典型的な高齢者の消費パターンでしょう。貯金をたくさん持っていても、その元本にまで手を出して、毎月切り崩していくといったおカネの使い方はシニア層は絶対にしません。

ななつ星」に乗る3割は普通の高齢者たち

ほかにどんな時にシニア層はおカネを使うのでしょう。そこに向けて企業は新商品を提案していけばよいわけですが。

村田 米国の心理学者コーエンが、45歳以降は4つの段階で心理的発達があると言っていますが、50歳代後半から70歳代前半に現れるとしているのが「解放段階」と呼ばれるものです。「今やるしかない」という心理です。私はこれを「解放型消費」と呼んでいます。

例えばJR九州で大ヒットしている高級列車を使ったクルーズトレイン「ななつ星」で、圧倒的に高齢者のお客が多いわけですが、その7割は富裕層でしょう。ところが残りの3割は決して富裕層とは言えない普通の人たちが楽しんでいます。

お客さんだった60代半ばの女性は介護関係の仕事をしていて、決してフローの収入は高くないのですが、元気で自由がきくうちに、やっておきたい事に奮発しておカネを使っているというのです。

こうした消費の形はシニア層特有で、これをターゲットにした商品開発に各社しのぎを削っています。高齢者の消費行動を知り、自社の強みを分かったうえで、どんな商品・サービスを生み出していくか。企業にとって高齢化社会はむしろチャンスだとも言えます。

成功するシニアビジネスの教科書(日本経済新聞出版)

講談社 現代ビジネスのページで原文を読む

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