カレッジリンク=大学と連携して運営するシニア向け住宅事業

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2010年2月15日 産学官連携ジャーナル2月号 連載:高齢社会対策で日本は世界のリーダーになれる:産学連携から見るシニアビジネス(中)

日本初の「カレッジリンク型シニア住宅」

筆者は関西大学と(株)アンクラージュが連携する日本初のカレッジリンク型シニア住宅「クラブ・アンクラージュ御影」(神戸市灘区)の運営に関わっている。

カレッジリンク型シニア住宅とは、大学と住宅運営者との連携協力で展開されるシニア向け住宅事業を言う。アメリカの先行事例では、住宅の入居者・スタッフ、大学の教授・職員・学生が連携することで、既存のシニア向け住宅にはない、多くのメリットを生み出している。

例えば、入居者は大学キャンパスやシニア住宅で若い学生と共に講義やゼミで学べる。また、図書館・食堂などの大学キャンパス内の施設を自由に利用でき、演奏会など大学主催のイベントにも参加できる。一方、学生は講義やゼミのほかにシニア住宅のスタッフとして働き、入居者と交流するのに加えて、入居者からの奨学金で学業を支えられることもある。

〇六年六月の協定締結後、住宅の建設に先立ち「キャンパス体験セミナー」や「プレコース」を実施し、高齢者と大学教授・学生による学習プログラムの試験的運用を行ってきた(写真)。この運用による経験とアメリカ事例の詳細な研究に基づき独自にデザインされた次の「カレッジリンク学習プログラム」を一〇年より開始する予定である。

千里山プログラムでは、関西大学千里山キャンパスで実施する講義やゼミ、課外活動がプログラムの中心となる。入居者は所定の要件を満たせば、関西大学の正規学生として、他の学生と一緒に講義を受けられ、図書館等の学内施設も利用できる。また、御影プログラムでは、住宅で実施する講義やゼミ、学生による住宅でのスタッフとしての活動がプログラムの中心となる。

七〇代以降の入居者にはどうしても脳機能の衰えが見られる。このため、東北大学・(株)くもん学習療法センターと連携し、簡単な読み・書き・計算で脳の活性化を図れる「学習療法」「脳の健康教室」を脳の準備運動として位置付け、学習プログラムに無理なく取り組めるように考慮している。また、これにより学習プログラムへの参加が難しい要介護度の高い人にも学ぶ楽しみを感じてもらえる。

年齢にかかわらない「知縁コミュニティ」

アメリカの先行事例によれば、カレッジリンク型シニア住宅の入居者は、他の高齢者施設と比べ総じて生活の満足度・充実度が極めて高い。若い学生と共通のテーマで学びあい触れ合うことが、日々の生活にリズムと張りを与え、高齢者の生活を若く、いきいきとしたものに保たせているからだ。

また、入居者は若い学生の相談役として人生経験を生かせるなど、学生と入居者の双方にメリットがある。こうした点でカレッジリンク型シニア住宅という試みは、若い世代と隔離されがちという従来の老人ホームが持っている既成概念を完璧に打ち崩すものとなる。

さらに、本来、高等教育機関としての大学は、年齢で区切られた人生のある段階に一律に通過する場所ではなく、年齢にかかわらず「知的好奇心をもつ人の縁」で結ばれた「知縁コミュニティ」である。キャンパスが知のネットワークの結節点として有効に機能することで、日本における大学のイメージが大きく転換し、大学が本来的な知の拠点として再生することが大いに期待される。

カレッジリンクの本質はナレッジリンク

このように、カレッジリンク(College-linked)の本質は、大学の知的資源と対象の知的資源とが結びついたナレッジリンク(Knowledge-linked)である。シニア住宅の入居者・スタッフと大学の学生・教職員がもつ「知のエネルギー」がつながること、つまり「知縁」によって従来存在しなかった新しい価値が生まれるのである。

この概念に従い、カレッジリンクの対象をシニア住宅だけでなく、地域全体に広げた「カレッジリンク・コミュニティ」の試みも始まっている。千葉大学、柏市、三井不動産(株)などの連携による「千葉大学柏の葉カレッジリンク・プログラム」がそれだ。

大学との産学連携は、疲弊する地域の活性化の手段としても期待されている。だが、大学と地域との従来の交流は、関与の形態が大学教授の個人単位のものが多く、活動へのコミットも個人レベルに留まっていた。このため、地域が活用できる大学資源はごく限られ、大学との交流成果の地域への還元も限られていた。これに対し、カレッジリンクでは、関与の形態が大学組織単位であり、活動へのコミットも組織としての公式協定に基づき、組織単位で行われる。したがって、地域が活用できる大学資源は格段に多くなり、成果の地域への還元も多くなる。

街づくりのパラダイム転換を促進

カレッジリンク・コミュニティは、大学の資源を活用する新たな街づくりの手法とも言える。こうした話をすると「アメリカに多く見られる従来のカレッジタウンと何が違うのか」と質問されることがある。

答えは「全然違う」。従来のカレッジタウンでは、何もない更地にまず大学をつくり、それから街をつくる。これらの作業は全て行政主導のトップダウンで行われる。これに対し、カレッジリンク・コミュニティでは、大学づくりと街づくりとが同時並行で進行する。これらの作業は行政だけでなく、コミュニティ構成員全体による相互関与で行われる。

行政主導で硬直的に開発された魅力の乏しい従来の街に代わり、今後はカレッジリンクの考え方によるダイナミックで生きた街づくりが日本中に増えていくことが期待される。

この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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