地域の強みから新規事業の差異化を考える

小川の庄のおばあちゃんが作るおやき 新聞・雑誌
小川の庄のおばあちゃんが作るおやき

7月10日 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第88回

何もないように見える過疎地でも必ず何か資源がある

私が知る限り、新規事業を成功させる人は、それまでの通説や一般常識にとらわれず、独自の差異化を実行する人だ。そして、独自の差異化は、その会社や地域の特徴を強みに変えることで成し遂げている例が多い。

長野県にある「おやきビジネス」で有名な「小川の庄」がそれだ。小川の庄は名前の通り長野市の西、小川村にある。小川村は総人口3000人弱。うち65歳以上の高齢者人口が1300人を超え、高齢化率は43%を越えている。限界集落ではないが、文句なく限界集落予備軍である。

小川村は山間の傾斜地の多い場所だ。私も実際に行ったことがあるが、現地にたどり着くまでは、こんな場所に本当におやきビジネスがあるのだろうかと不安になった。お世辞にも耕作に恵まれた土地とは言えない場所だ。

しかし、必要は発明の母、逆境こそが知恵を生む。こうした傾斜地で栽培できるのは、穀物では麦や雑穀となる。この麦や雑穀を皮の原料とし、条件の悪い耕作地でもできやすい地元産の野沢菜や山菜を具にしたのが、実はおやきなのだ。また、このあたりには広葉樹が多いため、おやきを焼くための燃料にそれを使った。

おやきは、本来、売り物ではなく各自の家で食べるものだ。家ごとに皮の作り方や具の種類から焼き方まで異なる家庭食なのだ。このため、おのおの家の製法・ノウハウは、すべて家の女性、つまりおばあちゃんたちが持っていた。

「究極の地元資源」はおばあちゃんたちだった

ところが、過疎の村で、おばあちゃんたちもやることがなく、低収入にあえいでいた。このおばあちゃんたちが働きやすい職場環境を整備すれば、雇用機会の創出にもなり、一挙両得となる。

そう考えた創業者の権田一郎さんは、「究極の地元資源」、おばあちゃんたちをおやきつくりの主役にして事業を組み立てたのだ。

このように地域にある資源を徹底的に使いこなすことを考えた末の結論が、おやきビジネスなのだ。

地域の外から見た方が地域の強みは見えやすい

徳島県の山村、人口2000数百人の過疎の町、上勝町にある株式会社いろどりが、地元の高齢者を活用して行っている「葉っぱビジネス」も地元の強みを生かしたものだ。日本料理店に出荷し、料理を彩る季節の葉や紅葉、花、山菜などを、栽培・出荷・販売する農業ビジネスだ。

この地域の強みは、実は地域内では見つけられなかった。地元の人たちが当たり前と思っていることでも、外部の目で見ることによって、ビジネス価値を見い出せるのだ。現在社長を務めている横石知二さんが、大阪の料亭で見た光景が原点になっている。

隣で食事をしていた若い女性が、料理に添えられた葉っぱを自分のハンカチで丁寧にしまって席を後にしたのだ。そこで、横石さんは「これはビジネスになる。葉っぱは地元にたくさんある。葉っぱなら地元の高齢者でも簡単に集められる」とひらめいたそうだ。これは、外部から地元を見ることで、地元の強みを見つけ出した例だ。

新事業成功の要諦は、地域の強みを徹底的に活かすこと

私達がこれらの事例から学ぶことは何だろうか。それは「新事業成功の要諦は、地域の強みを徹底的に活かすこと」だ。

同じことが民間企業に対しても言える。つまり、「新事業成功の要諦は、自社の強みを徹底的に活かすこと」。そして、どこまで徹底できるかは、取り組む経営者の腹づもりで決まる。

成功するシニアビジネスの教科書

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