2012年7月1日 販促会議8月号 特集 シニア市場のプロモーション
団塊の世代が60代半ばにさしかかろうとしている。こうした「団塊シニア」層には、自分はまだまだ元気だと自負している人が多い。ところが、60代ともなると40代、50代のころよりも確実に体力・気力は衰えている。
その一方で、「年寄り扱いはされたくない」と考えている人も大勢いる。シニア層でも買いやすく、受け入れられる店舗を目指すならば、こうした身体と心の変化を十分に考慮した売り場づくりを行うべきだ。
老眼への対応
老眼は、その言葉のために老人(高齢者)の症状のように思えるが、実際は40代から発症する人が増えていく。
若い人には想像しにくいが、小さな文字が読みにくくなり、進展すると文字を読むこと自体が苦痛になる。このため店舗におけるPOPの文字やパンフレットなどが小さい文字で書かれていると、販売機会を逃しやすくなる。
また、たとえ老眼の人でも普段の生活のなかで常時老眼鏡をかけている人は意外に少ない。そうした人が急に買い物に出かけた時に、老眼鏡を忘れてしまうことはよくある。それが理由で商品の説明書きが読めず、販売機会を逃がしてしまうことも多い。
こうした機会損失を防ぐためには、まず、パンフレットやPOPはハッキリ黒々とした大きな文字フォントで書くことが必要だ。蛍光色はまぶしいと感じるので使わないほうがよい。さらに、シニアは若い人よりも身長が低い場合が多いので、POPや商品は目の高さより下になるよう、低めの位置に展開したほうが見やすくなる。
次に、老眼鏡を忘れてきた人向けに店の入り口で、老眼鏡を無料でレンタルする、あるいは、100円ショップで売っているような廉価版の棚を入り口付近に設置し、買ってもらってもよいだろう。
さらに、毎日配達される新聞と一緒にくるチラシも工夫が必要だ。商品情報をもれなく詰め込むために文字フォントが小さいものが依然多いが、こうしたチラシは文字が読みにくいので、配達しても読まれない場合が多く、機会損失となる。訴求したい点数を絞って、大きめのフォントで、印象深く伝えるスタイルが必要だ。
脚力の衰えへの対応
シニア層向けの売り場を考えるうえで重要なのは、脚力の衰えへの対応だ。私たちの体は普通に生活しているだけだと年齢とともに筋肉量が落ちていく。体の筋肉量は20代を100%とすると、60代ではほぼ60%、70代ではほぼ50%になるというデータもある。
また、上半身よりも下半身のほうが筋肉は落ちやすく、男性よりも女性のほうが落ちやすい。だから、特に女性は年をとるにつれて下半身細りになる。体重が同じで筋肉が半分になったら、倍の体重を支えることになり、転倒リスクが大きくなる。
歩行機能の面で特に重要なのは大腰筋だ。これは上半身と下半身をつないでいる、骨に近いところにある筋肉である。私たちは、通常歩くとき、無意識にかかとから地面について歩く。ところが、大腰筋が弱ってくると、かかとからではなく、つま先から地面につけて歩くようになる。すると道端に段差や石ころ、溝などがあるとつまずいて転倒しやすくなる。
したがって、フロアの段差を減らす、突起物をなくす、店内の動線をなるべく効率的に配置する、などの工夫が重要だ。京王百貨店などでは一階から二階に上がるエスカレータの速度を通常よりもゆっくりにしている。エスカレータに乗る際につまづきやすい高齢者が多いことを考慮したものだ。
一方、いすの使い方も重要だ。足腰が衰えている高齢者は、長い距離の移動が苦痛になり、単位時間あたりの歩行距離が短くなる。売り場フロアの各所にいすを設置すると、適宜休憩を取りながら買い物ができるので、喜ばれる。その結果として店舗滞在時間が長くなり、買い物機会の増加につながる。
実は、このいすに腰かけて休憩している時間は、商品を効果的に伝える機会でもある。ある百貨店では、いすに座っている顧客に了解を得た上で、商品である靴磨きクリームの無料体験サービスを行っている。きれいになって喜んだ顧客が、その靴磨きクリームを購入する場面もしばしば見られる。
また、いすに座った時に見える風景にも気を配ると、より販売機会が増える。ひと休みしたら、あの商品を見に行ってみよう、手に取って試してみようと思える「商品の光景」が自然に目に入ってくることが大事だ。デパ地下なら、焼き立てパンの匂いが漂ってくる場所にいすを置くなど、臭覚に訴えるやり方も効果的だろう。
頻尿への対応
高齢者には頻尿の症状が多い。頻尿の原因として、膀胱や尿道等の下部尿路器官などに病気や異常が認められる場合と、尿路器官などに病気や異常等が認められないのに、心理的な事が原因になって頻尿の症状だけが出る場合がある。後者については、70~80歳代の高齢者では30%以上に見られると言われている。
このため、売り場におけるトイレの位置が大事だ。買い物の途中でトイレにいきたくなった時に、わかりにくい場所にあったり、使いにくかったりすると、店に対する印象が悪くなる。たとえば、手をかざして水を流すタイプや、自動でフタが空いたりするトイレは、年配者にはかえって使いにくい。過度に自動化されていないものがよい。また、大きな字で説明書きをつけるなどの心遣いが、親切な印象を与える。
聴力低下への対応
売り場の環境づくりでは、年齢を重ねるにつれて聴力も弱まるので、BGMの選曲やボリュームにも配慮が必要だ。一方、難聴気味の人でも話し相手と顔を向き合って話せば、唇の動きが見えるためにかなり話が伝わる。そうした顧客と円滑にコミュニケーションするために、売り場のスタッフは、相手ときちんと向き合って、明瞭な発音で分かりやすい対応を心がけることが必要だ。
認知機能の低下への対応
特に意識して鍛えない限り、年を取るにつれて一般に記憶力などの認知機能は低下してくる。仮に、ヨーグルトを販促しようとした場合、血糖値が上がりにくくなる、腸の健康を保てるなど、いろいろな効能があるとしても、それらの効能をあまりくどくど羅列すると逆に印象深く伝わらない。
だから、例えば、「骨が丈夫になる」など、年配者なら誰もが気にしている「健康」に良いことを直接訴求するキャッチコピーを添える方がより効果的だ。店頭商品の訴求点は、なるべく1商品につき1項目を訴求するにとどめるのがよい。
シニア層の身体の変化は、若い人には想像しにくい。だから、体の機能の低下が買い物にもたらす影響を学び、売り場・サービスに反映することが大切だ。