先見経済 5月第4週号

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先見経済 5月第4週号

村田裕之
 
都心の再開発が目白押しだ。
昨年9月の丸ビル、10月の汐留、
そして今年連休前にオープンした
六本木ヒルズ。

特に、六本木ヒルズは、約11万平方メートルの広大な敷地に オフィスビル、マンション、
ホテル、映画館、 レストラン、ショッピング店舗が軒を連ねる新たな「街」として注目されている。

しかし、どの再開発地域に行っても
ショッピング店舗やレストランの雰囲気が
似ていることに気がつく。

実は、どの案件でも、
集客力あるテナントの誘致が
成功のカギを握っている。
このため、人気のあるテナントは、
どの案件からも入居の誘いがかかる。
その結果、どこに行っても似たような雰囲気となり、
大差がなくなってしまう。

実は、百貨店業界が既にこの道をたどっている。

大手百貨店ではどの店舗にも
ルイ・ヴィトンやエルメスなどの
海外の有名ブランドが入っている。
床面積当りの売上効率が優先される百貨店では、
利益率の高い海外ブランドをいかに誘致するかが肝要だった。

その結果、気がつけば、どの百貨店にも同じブランドが入店し、
もはやそれだけでは差別化にならなくなった。

このように、テナントの「誘致競争」だけでは、
短期的な差別化になっても、中長期的な差別化にはならない。
つまり、入居するテナントの力に頼る方法は、
「差別化されないための戦略」でしかない。
そうではなく、その再開発地域独自の
「差別化のための戦略」こそが必要である。

では、六本木ヒルズの「差別化のための戦略」は何か。

ひとつが、ナイトライフの新しい選択肢の提供だ。
その象徴がヴァージンシネマズのシネマコンプレックスと
東京シティビューの展望フロアである。
どちらも終夜または深夜1時まで営業する。
また、多くのレストランが深夜まで営業する。

もうひとつは、都心における職住接近だ。
敷地内に4棟、8百戸の高層マンションがある。
ただし、月の家賃が百万円以上という設定のため、
外資系企業の役員などに入居者は限られる。
しかし、オフィス街のすぐ側に住むことができるという
選択肢を提供したことは目新しい。

以上の二つは、あくまで現時点における
差別化されないための打ち手である。
一方、中長期的な差別化のための打ち手は何だろうか。

5年後の2008年には、日本の人口動態上、突出した団塊世代の
3分の2以上が60歳代となり定年退職の年齢を過ぎる。
その頃には、終身雇用・年功型賃金制度の崩壊がさらに進み、
60歳以前で退職する人も増え、
大半が「退職者」となることが予想される。

その時、特に男性サラリーマン退職者が、
長年通いなれた職場の代わりにどこにいくのかは興味深い。

六本木ヒルズ森タワーの52階に
アカデミーヒルズという場所があることは、
一般来場者にはあまり知られていない。
「アーク都市塾」や「マイライブラリー」など
都市生活者の知的欲求に応える「都市の学び舎」を標榜する動きだ。

実は、これこそが六本木ヒルズの
中長期的な差別化戦略の橋頭堡に見える。

日本を代表する「文化都心」の創出が、
六本木ヒルズの最終ゴールのはず。
単なる娯楽やレジャーでは物足らない
元気な60歳代の団塊世代が毎日通いつめるような
「知のワンダーランド」の構築に向かうのか注目したい。

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