シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第126回
平均寿命から健康寿命へ
現在、日本人の平均寿命は、女性87歳で世界一、男性80歳で世界5位。世界有数の長寿国だ。私は10年ほど前に、ある雑誌で「人生100年時代」について書いたが、それがいよいよ現実味を帯びてきた。
しかし、ここ数年、伸ばすべきは平均寿命ではなく、健康寿命だという考え方が主流になってきた。ちなみに平均寿命は0歳から平均何年生きるかという意味だ。
それに対して、健康寿命とは、日常的・継続的な医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命維持し、自立した生活ができる生存期間のことを言う。
日本の場合、健康寿命は女性の場合74歳くらい、男性の場合は71歳くらい、言い換えれば女性は13年、男性は9年に渡って要支援、もしくは要介護の状態にある。一方、先進国の平均寿命と健康寿命の差をみると平均は7年程度。日本の女性の13年は、かなり長いと言える。
これまで日本は平均寿命を延ばすことに重きを置いてきたが、結果として要支援・要介護の期間を伸ばすことになっていた。平均寿命は世界のトップクラスになったので、次は要支援・要介護の期間を短くする必要がある。
しかし、それではわかりにくいので、「健康寿命を延ばす」という言葉が使われるようになったわけだ。3~4年前から政府も旗を振り始め、現在では、健康寿命の考え方はかなり知られてきたと言えよう。
そもそも、寿命は何によって決まるのか。さまざまな説があるが、現在は遺伝子によるという考え方が主流だ。遺伝情報を伝えるのは「染色体」だが、その両端に「テロメア」という領域があり、細胞分裂を起こす度に短くなっていく。何回か分裂すると「テロメア」は、すっかり短くなり、もはや分裂できなくなる。それが寿命を決定するという考えだ。
分裂できる回数は約50回。それだけ繰り返すのに、だいたい125年程度かかる。実際、現在の世界最長記録は122歳なので、人間の寿命上限は125歳前後だろうと言われている。平均寿命が延びるにつれ、平均寿命の伸びしろは小さくなっていく。
また、仮にがん、脳こうそくなどの脳血管障害、肺炎といった上位の死因を撲滅できたとしても、平均寿命はせいぜい5年程度しか伸びないという説もある。これらの実現のためには相当のお金がかかる。だが、それだけの投資をしても、伸びる寿命はせいぜい5年。下手をすれば要支援・要介護状態が伸びるだけかもしれない。
平均寿命が延び、誰しも長生きのリスクを認識するようになったことで、5年平均寿命を延ばすよりも、元気でいられる健康寿命を延ばすための環境を整えた方がいいといった考え方が広がってきた。
人生100年時代をどう生きるか
問題は、寿命の延びのスピードに、なかなか個人や社会の変化が追い付かないことだ。人生100年時代は、社会や企業だけではなく、個人も人生設計を見直す必要がある。
これまでは、短大や大学などを卒業したら就職して、やがて結婚をして、家を建てて55歳か60歳で定年になり、再雇用で65歳くらいまで働くという直線型のキャリアパスが一般的だった。
しかし、最近は、もう少し長く働きたい、働かざるを得ないと、最後のステージに変化が生じている。
かつてのハッピーリタイアメントは、退職したら毎日ゴルフ三昧で、働かないことだと考えられていた。だが、現在は週に3日働いて、4日は趣味など自分の好きなことに充てるといったメリハリのある生活だと考える人が増えてきた。
もっとも、実際にはずっと働ける人は少数派だ。1つの会社で30数年働いていれば、骨の髄までその会社の文化にどっぷりと染まってしまうので、他の会社で通用しづらくなるからだ。
そこで、これからは、こうした「直線型」のキャリアパスではなく、会社勤めの途中で大学に行ったり留学などをして、人生のブラッシュアップをしたら、また就職する・独立するとか、いろんなステージを行ったり来たりする「複線型」のキャリアパスを経験することが重要になるだろう。様々なキャリアパスを経験すれば、活躍できるステージは広がっていくはずだ。