ワイントレインに見る「地域型コト消費ビジネス」のヒント

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シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第118回

全米一のワインをテーマにした観光体験

年初に会合で米国に出張した際、サンフランシスコ北部のナパ(Napa)市「ワイントレイン」を体験した。これはナパとセントヘレナ間のワイン産地を往復する観光鉄道のこと。

ナパという地名は日本では一部のワイン好き以外にあまり知られていないが、米国ではワインの大産地として広く知られている。ワイントレインは89年9月の開業以来、利用者は2百万人を超える。何が人気の秘訣なのか。

全9車両が食堂車のワイントレイン

第一に、ユニークな車両。牽引車2両以外の9車両全てが食堂車である。1915年製のアンティーク車両を改装した食堂車「グルメ」、1952年製の展望車「ビスタドーム」と西部劇のテーマを盛り込んだ「シルバラード」、デザートとティスティングバー用の「ラウンジ」など目的に応じた車両が用意されている。

第二に、ダイナミックな景観。鉄道が走る地域は米国屈指のワインの大産地。列車は広大なワイン畑のど真ん中を時速30キロでゆったりと走る

窓を開放できる車両もあり、ワイン畑の景観を存分に楽しみながら美味しいワインと食事を楽しむという贅沢が味わえる。これは日本にはない、米国らしい異国情緒だ。

第三に、ツアーコースの充実。私が参加したツアーでは列車を途中下車後、小型バスに乗り、ワイナリーを2か所巡るものだった。

最初の所ではナパワインの歴史や美味しいワインを造るための苦労話などを聞くことができた。2つの所では全てのワインが有機農法製で、火山灰からなるナパの地層と気候の優位性を知ることができた。

客の立場で楽しいのは、ワイナリーに着いた瞬間からワイングラスを渡され、異なる見学点で試飲できること。気の置けない仲間とのおしゃべりも盛り上がりやすく、私のような外国人には大変楽しい演出だ。

地域でのコト消費ビジネスに応用できるヒント満載

10年前に拙著リタイアモラトリアムで、日本に沢山あった食堂車がほとんどなくなり、一部私鉄以外に、列車の旅を満喫できる鉄道サービスがなくなったのが残念、と書いた。

しかし、近年JR九州のななつ星in九州が登場、JR東日本も高級観光列車を今年から運行予定するなど、列車での旅の選択肢が増えてきた。

この10年で人口動態のシニアシフトが進み、重点顧客になったシニア層のニーズをくみ取ろうという事業者側の努力が形になってきたのだ。

JRグループの観光列車は、九州全域あるいは東日本全域をまたがるものだ。しかし、私は今回のワイントレインの体験から、むしろ一都道府県や一部地域に特化した観光列車の方がその地域の特色を活かせる気がした。

地域色豊かな「ローカル・ダイニング・トレイン」の可能性

例えば、私の故郷の新潟県は、南北に長いため、北の村上市あたりから南は群馬県境に近い越後湯沢まで、あるいは先日大火で有名になった糸魚川市までをルートとする観光列車が考えられる。

幸い日本は鉄道王国だ。新たに鉄道を敷くのではなく、既存のJRや第三セクターの路線の活用を考えればよい。車両はワイントレインに倣って昔使っていた食堂車やビュッフェ車両を改装して使うのもよい。

新潟は全国一食材が豊富で美味しい。村上市なら新巻きサケのはらこめし、見附市なら地元の料亭料理、長岡市なら栃尾のジャンボ油揚げにのっぺ汁、小千谷市ならへぎそば、南魚沼市ならコシヒカリ、とコンテンツは無限にある。各地域の日本酒の美味しさは言うまでもない。

あとは停車地毎に見学ツアーを設定すればよい。新潟市郊外のカーブドッチ・ワイナリーツアー、八海山の酒蔵ツアー、堀之内のやな場ツアーなど、こちらも色々考えられる。

こうした地域色豊かな「ローカル・ダイニング・トレイン」は、旅好きな日本のシニア層だけでなく、外国人観光客にも大いに受けるはずだ。

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