シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第99回
退職後の生活では「知縁」が重要
私は、退職後の人生では「知縁(ちえん)」がとても大切なつながりになると考えている。この言葉は「知的好奇心が結ぶ縁」という意味で、2002年に私が日本経済新聞で初めて提唱したものだ。
縁には順番がある。1番目の縁は「血縁」、家族・親族の縁。2番目は「地縁」、住んだことのある場所の縁。3番目は「社縁」、もしくは「職縁」で、会社・仕事関係の縁。この知縁は第4番目の縁ということができる。
現代は核家族が多いので、家族のつながり(血縁)が弱くなっている。男性サラリーマンの多くは、現役時代は会社と家の往復で過ごす。その結果、地域とのつながり(地縁)は薄い。一方、現役時代は会社とのつながり(社縁)が一番強い。退職しても、しばらくはOB会などでつながりが残る。ところが、それも時間の経過とともに次第に薄れてくる。
そこで、知縁という知的好奇心で結ばれた関係がますます重要になってくる。知縁型商品とは、それを商品販売やサービス提供に応用しようという考え方だ。
「知縁型店舗」でコト消費からモノ消費へ展開する
カルチャーセンターの参加者は、知的好奇心の似た者どうしが集まっているので知縁の場に近いといえる。しかし、多くの場合は教室の授業が終わると、通常そこで関係は終了する。せいぜい、講師がやっている別な教室に通うというレベルだ。
そこで、最近ではカルチャーセンターを知縁の入り口にして、そこから発展的に購買活動につなげようという意図をもった動きが出て来た。イオン葛西店の「GGモール」や三越本店の「はじまりのカフェ」にその兆候が見られる。
カルチャー教室を開催するだけでなく、併設のいろいろなショップで、その教室に関わる本、楽器、手芸用品、アクセサリー、ペットなどを販売している。好きなものどうしが集まって勉強し、さまざまな情報交換をすることで話が盛り上がる。その結果、「こんなことをしたい」「こんなものが欲しい」となると、その受け皿となる店が併設されているので購買に結びつきやすくなるのだ。
このように、「受け皿がすぐそばにある」ことが、コト消費からモノ消費につながりやすいポイントだ。教室だけだと、その場では盛り上がっても、すぐに忘れてしまう。「鉄は熱いうちに打て」を具現化するためには、教室と各ショップが同じフロアのなるべく近い所にあることが重要だ。
商品が好きなセミプロの顧客を「知縁エージェント」にする
蔦屋書店の代官山店では、公募で選ばれた本好きの人が書籍コンシェルジュとなり、自分の選んだテーマで本を品揃えしたり、顧客にアドバイスしたりしている。京都の観光地に関する本を150冊揃え、「日本でこれだけの、このテーマに関する本を集めたのは、ここだけ」というオンリーワンの雰囲気をつくりあげる演出をしている。
「ここにしかない」ことを品ぞろえで徹底すると本物感が出る。買う人も楽しいし、コンシェルジュとして紹介する方も楽しいというダブルの効果がある。もともと本好きの消費者だった人が売り子になると、そのような一段レベルの高い顧客満足を提供できるようになる。
蔦屋書店の他のコーナーでも専任コンシェルジュが公募で選ばれている。DVDコーナーでは映画コンシェルジュ、CDコーナーでは音楽コンシェルジュ、文具コーナーでは文具コンシェルジュ、トラベルカウンターでは旅行コンシェルジュという具合だ。
本、音楽、映画、旅行など売る側に知的センスが求められる商品は、そのような売り方が効果的であり、顧客との知縁つながりもできやすくなる。こうした楽しさは、かつて専門知識が豊富な「古本屋の主人」との対話で得られた知的好奇心の刺激と似ている。
このようにコト消費からモノ消費への流れを促すためには、商品が好きなセミプロの顧客を「知縁エージェント」として活用するのが効果的だ。