読売新聞 2015年7月3日
7月3日の読売新聞社会面の「終のすみか」に、高齢者の地方移住に関する記事が掲載されました。これに対する取材への私のコメントの一部が次の通り掲載されました。
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日米のシニア住宅に詳しい東北大の村田裕之特任教授は、「米国でもCCRCに移住する人は一部だが、引っ越しに抵抗感がなく、見知らぬ土地や住民にすぐなじむ人が多い。こうした生活様式が日本で受け入れられるだろうか。移住を進めるなら、若い人も住みたくなる魅力ある街づくりを進めるべきだ」と指摘する。
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新聞という字数が制限されるメディアの性質により、こうしたコメント掲載では取材でお話したことのごく一部のみが掲載されます
日本創生会議が高齢者の地方移住を打ち出してから、テレビ局や新聞社、雑誌社から私に対してのCCRCに関する問い合わせが非常に増えています。しかし、その質問内容は残念ながら、どれもほぼ同じ内容の表面的なものにとどまっています。
今回の高齢者地方移住論は、おおむね次の論旨になっています。
① 地方の人口減少を食い止め、地方経済を活性化させないといけない。
② 一方、東京圏は高齢者人口が今後も増え続け、医療・介護余力が不足する。
③ 地方の医療・介護余力のある地域に東京圏の高齢者が移住すれば、一挙両得になる。
④ 移住先の形態としてアメリカのCCRCを参考にした日本版CCRCが相応しい。
このうち、①について反対する人は少ないでしょう。②についても、このまま何の対策も打たないのであれば、要介護者は増えていくでしょう。
さて③はどうでしょう。日本創生会議の介護余力の算出根拠のなかに昭和40年代に建設された特養のベッド数などが含まれており、2040年にはそのままでは使用できず、実は余力になっていないという批判があります。
また、私のコメントで述べたように、高齢になるといろいろな理由で移住するのが億劫になります。都市部に持っている自宅を売却してまで見知らぬ田舎に移住するのは大変な勇気が必要です。
もともとその地に生まれ育った人なら、退職後田舎に戻るケースは時々あるので、そういう人はいるでしょう。しかし、そうした人たちの割合はせいぜい全体の1割程度でしょう。
そして、④はどうでしょうか。CCRCはアメリカでは2300程度存在しており、一定の割合が住んでいます。しかし、そこでの住民の総人数は70万人程度で、なかには50代の人も含まれていますので、高齢者人口全体における割合はそれほど多くありません。
その理由は、①アメリカでもできるだけ長く自宅に住み続けたい人が多いこと、②CCRCに移住できる高齢者は、資産レベルで中より上の人に限られることです。
一番の疑問は、たかだか400人程度の高齢者しか住まないCCRCをつくることが、地方の人口減少を食い止め、地方経済を活性化させることに、どれほどの効果があるのかです。
百歩譲って、これを推進している事業者が自分たちで資金を拠出してリスクを取ってやるのであれば、誰かにケチをつけられる筋合いはありません。
しかし、私が気になるのは、誰が経営リスクを取るのかがよくわからない協議会という団体に、私たちの血税が投入されようとしていることです。こうした点をメディアの皆さんにも、ぜひ注意してほしいと思います。