球場ビール、うまさの「正体」

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コロナ禍で強まる感情ヒューリスティック

2021年8月27日 日経MJ連載 なるほどスマート・エイジング

同じクアーズの味が違って感じる理由

大谷翔平の出場で大きな話題を集めた米大リーグオールスターゲームが開催された「クアーズ・フィールド」は日本にはない圧倒的スケール感のある球場だ。その名称はスポンサーである米国のビール会社、モルソン・クアーズにちなむ。

筆者も10年以上前に訪れたことがあるが、ここで野球観戦しながら飲むクアーズは本当においしく、試合が盛り上がるにつれ何杯も飲んでしまった記憶がある。

ところが、このクアーズを家で飲むと何か物足りない印象だった。筆者はクアーズ・フィールドで飲んだものとはまるで別物のように感じてしまった。

この違いが生じる理由は、おいしいと感じた理由をビールそのものでなく、その他のことが理由となっているためと考えられる。

野球観戦時のワクワク感をその時に飲むビールや食べものの満足感と勘違いしているのだ。気分がよい時に飲み食いするものがおいしく感じるのはこれが理由だ。

さらにワクワク感に加えて「今日くらいはぜいたくしてもよい」という自分へのご褒美感や「今日は普段しないことをしてもよい」という解放感など様々な要素が加わって、一層おいしく感じるようになる。

こうした現象を心理学で「感情ヒューリスティック」と呼ぶ。これは人が感情的な要素で経験則や先入観に基づいて素早く判断する傾向を意味する。

前述の通りおいしいと感じる背景には様々な要因があるが、通常私たちはそうした要因を深く考えずに「おいしい!」と言う場合が大半だ。

コロナ禍で強まる感情ヒューリスティック

実はこの「感情ヒューリスティック」がコロナ禍により世の中全般で強まっているのではないだろうか。

2020年の最初の緊急事態宣言以降、旅行が激減した一方で、キャンプ場などでの飲食する人が大幅に増えたとみられる。

バーベキューや芋煮会などで食べるものがおいしく感じるのは、屋外の環境で大勢の人たちとワイワイ言いながら食べる楽しさが「おいしさ」として評価されるためだ。

この「おいしさ」を経験的に知っている人たちは、コロナ禍で行動制限されると、むしろ家の中より屋外で飲食したくなる。

緊急事態宣言により路上飲みや公園飲みが増えるのも、単に飲食店で酒の提供が禁止される理由だけでなく、上述の「おいしさ」を求めたくなるからではないだろうか。

このように、利用者側は論理的な説明より感情的な要素で、おいしさ、楽しさ、心地よさを求める傾向が強まっている。

コロナ禍で論理よりも感情的に「欲しい」と思わせる訴求が増えている

一方、この傾向に呼応して商品を提供する側も感情的な動画や音などで、おいしさ、楽しさ、心地よさを訴求する傾向が強まっているとみられる。

人は情報が多過ぎて十分に処理できない時にヒューリスティック、つまり経験則や先入観に基づき素早く判断する傾向が強くなる。だが、これは危うくないだろうか。

コロナ禍が長引き、閉塞感が漂うこの危うい雰囲気の時こそ、あえて論理的説明を重視する思考のバランスが求められるのではないか。

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この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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