2021年3月19日 日経MJ連載 なるほどスマート・エイジング
コロナ渦でコミュニケーションの「オンライン化」が圧倒的に進んだ。社内外の人との打合せ、セミナー、会合などの多くを対面なしに行うのが当たり前、いわゆる「ニューノーマル」になった。
にもかかわらず、多くの人が「オンラインは疲れる」と感じている。なぜ、疲れるのかの理由を整理してみたい。
画面が小さいと相手の表情を把握するのにエネルギーを使う
第一に、相手とのやりとりを小さな画面を通じて行うからだ。画面サイズはノートパソコンなら最大で14インチ程度、デスクトップでもせいぜい23インチ程度だ。タブレット端末ならノートより小さいし、スマホならさらに小さい。
画面が小さいと相手の表情・動作が見えづらい。すると相手が何を言おうとしているのか把握するのに対面時に比べて多くのエネルギーが必要となりストレスになる。
第二は、画面に映る相手を常に正視する必要があり、相手からも正視され続ける点だ。対面なら会話しながら適度に視線を分散できるが、オンラインでは難しい。複数での会合時には場合によってカメラをオフにして正視を中断できるが、一方で「対話感」が欠如する。
第三が、画面から出る強力なブルーライトで目が疲れやすい点だ。テレワークの増加と共にパソコン画面を見る時間が増え、目の疲れを訴える人が増えているのはこれが理由だ。
空気感が共有できないと対話の相互反応が起きにくい
そして第四が、場の「空気感」を共有できない点だ。対面での講演だと、目の前の聴衆の表情、笑い声、どよめき、などの反応を直に感じられる。それに合わせてアイコンタクトをしたり、話し方を変えたり、などの工夫ができる。また話し手の熱気が聴衆に伝わり、その聴衆の反応が別の聴衆に影響を与えるということもしばしば起きる。
ところがオンラインではこうした相互反応はまず起きない。筆者のように人前で話す機会の多い人間にとって、オンラインでの講演は「片側通行」の感覚が強く、非常に疲れることを実感している。
ちなみに、対面での会話時に起きる相手との「共感」がオンラインだと起きにくいことが、東北大学の川島隆太教授らの研究で明らかになっている。脳科学の観点でも対面に比べてオンラインでのコミュニケーションの質は低いのだ。
可能なら対面で 難しいなら技術で対策を
対策は何か。一番良いのは感染症対策を施したうえで可能な限り対面機会を増やすことだ。コロナ渦が始まった1年前に比べれば感染予防の勘所はかなりわかってきた。小人数の会合であれば対面での敷居はそれほど高くないだろう。
とはいえコロナ渦が当分続くことを想定すると、前掲の理由に即した対策が必要だ。第一に、対話する人同士の画像情報量を増やすこと。具体的には画面サイズを大きくする、4K・8Kなどの高性能なカメラを使う、ネット速度環境を高速にすることだ。
第二に、画面から適度な距離を置くこと。画面サイズが大きいと、互いに常に正視しなくて対話感はある程度維持できる。ブルーライトの浴び方も少なくなる。
東京都の小池知事がオンラインでの打合する時に、自分のいる位置から少し離れた場所にある大画面テレビを使っているのが参考になる。事情が許すならこうしたやり方だと疲労は少なくなるだろう。
問題は、場の「空気感」の共有だ。これが現時点では一番ハードルが高い。実は空気感を感じているのは会合に参加している人の「脳」なので、そのメカニズムが解明できれば、離れた人どうしでも、あたかもその場の空気を共有しているかのような感覚を持てるかもしれない。今後の研究に期待したい。