5月24日 日経MJ連載 なるほどスマート・エイジング
居心地の良いカフェ、悪いカフェ、その差はどこから来るのか?
04年に上梓した拙著「シニアビジネス 多様性市場で成功する10の鉄則」で「退職者のための第三の場所」の例として、シカゴにあるマザー・カフェ・プラスを取り上げました。
それ以降、多くの企業がこれを真似て「○○カフェ」や「××サロン」を立ち上げてきましたが、ことごとく苦戦しました。
苦戦の大きな理由は、シニア向けカフェを平場のラウンジにしてしまうことにあります。なぜなら平場のラウンジには人が集いにくいからです。
実はこれは動物実験ですぐにわかります。体長に比べてかなり大きな箱の中にマウスを入れると、落ち着くことなく、大きな箱の周辺部のみをぐるぐると回り続けます。
こうした広い空間の真ん中では、マウスに限らず人間も含めた動物は恐怖や不快感を強く感じます。それは周りに隠れる場所がなく、敵から丸見えだからです。
自然界で生きる動物は常に敵からの脅威にさらされます。そのため、脅威を感じ取り防衛行動に移す本能をもっています。それを司っているのが、扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる脳の一部位です。
恐怖や不快を感じた扁桃体は、防衛のための信号を出します。それが興奮性の神経伝達物質(アドレナリンなど)を多量に分泌させるため、落ち着かなくなるのです。
この一連の神経ネットワークを専門用語で「罰系(ばつけい)」と言います。
人は周りに囲いがないところにはなるべくいたくありません。だから、平場のラウンジは居心地が悪いのです。
こういう原理がわかると、逆に居心地の良い空間をつくるにはどうすればよいかがわかります。連載記事にはその店舗事例を多く挙げています。
これらの店舗の設計者が脳科学的な知見をどれだけ持っていたかは知りませんが、こうした理屈を予め知っていると、設計における試行錯誤の幅が少なくなり、消費者にとって心地よい商品・サービス開発が効率的に可能になります。