シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第138回
要介護の人がカーブスで元気になる例が増えている
女性専用フィットネス・カーブスが日本でサービスを始めてから13年が経過した。店舗数は1,919(9月11日現在)、会員数は82.9万人(7月31日現在)まで成長し、日本一のフィットネスチェーンになった。
近年興味深いのは要介護認定を受けて介護サービスを使ったものの、それをやめてカーブスに来て健康を取り戻していく人が増えていることだ。これはサービス開始当初には全く予想しなかったことだ。
Aさん(58歳)のお母さん、Bさん(87歳)は、7年前に腰が大きく曲がり、要介護2の認定を受けてデイサービスに通っていた。しかし、体の状態は一向に改善しなかった。
東京に住むAさんは福岡の実家に帰省する度に老人ホームの内覧に同行していた。Bさんが近い将来、自宅での生活が困難になると思っていたからだ。
ところがある日、Aさんは東京で自分が通っているカーブスが実家のそばにできることを知り、Bさんにそこに通うよう勧めた。
カーブスに通い始めた当時、Bさんは体が直角に曲がっており、重いリュックを背負って上半身を反らさなければ顔を上げられない状態だった。
実家が山の中にあったため、最寄りのカーブスに通うためにバスを乗り継いで1時間半通う必要があった。自宅から最寄りバス停まで1キロ弱の距離だったが、Bさんの当時の状態では歩いて45分かかった。
店に通うだけで片道2時間以上もかかったら、普通は通わないだろう。しかし、Bさんは知り合いから大勢の人の前で「えらく腰曲がったね、何でそんなに」と心無い言葉を浴びせられ悔しい思いをしていた。
その辛い体験が「以前のように健康になりたい」という強い意欲をBさんに持たせ続け、店に通わせたのだ。
そして、カーブスに通い始めてから2か月後、自宅からバス停まで一度も休憩せずに15分で歩けるようになった。
その後、長年苦しんでいた花粉症も止まった。筋トレによって体内の代謝を促す成長ホルモンが分泌されやすくなり、免疫力が上がったのだ。
さらに、曲がっていた背中も徐々にシャンとして移動もスムーズにできるようになった。食事も以前は小鳥の餌程度しか食べられなかった。体が曲がっていて胃が圧迫されていたからだ。
だが、姿勢が良くなったら食欲が出て以前よりも多く食べられるようになった。姿勢の改善に加え、筋肉が増えて基礎代謝が増えたからだ。
現在のBさんの体力年齢は何と40代後半で、娘のAさんよりも若いそうだ。要介護2で体が直角に曲がっていた時とはまるで別人になった。
なぜ、デイで治らなかった要介護2の人がカーブスで治るのか?
第一に、通常のデイでは、カーブスで行う単位時間当たりの密度の濃い筋トレと有酸素運動は行わない。機能訓練型デイであれば、マシントレーニングなどもあるが、そもそもこのタイプのデイはまだ少なく、利用者の最寄りにない場合が多い。
第二に、デイでの機能訓練は理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションが中心であり、多くの場合、やっていて楽しいものではない。
これに対してカーブスでは入店すると「Bさん、今日は素敵な笑顔ですね!」とファーストネームで呼ばれる。店にはリズミカルなアメリカンポップスが流れ明るい気分になる。元気で親しみやすいコーチが利用者の状況に合わせて的確に指導してくれる。こうした積み重ねで利用者は楽しく筋トレを継続できる。
第三に、カーブスには、前向きに人生を歩みたいという意志があり、未来に対してポジティブなイキイキとした女性が数多くいる。こうした場に通うことで、周りの人たちから刺激を受け、肉体面だけでなく、精神面でも元気になる。「場の空気感」が人の気持ちを大きく変えるのだ。
カーブスがこのように明るい雰囲気にできる大きな理由は、介護保険制度に依存しない事業だからだ。制度に依存するビジネスは往々にして制度に従うことが自己目的化しがちだ。
しかし、カーブスはあくまで利用者であるメンバーさんの健康状態の改善が目的だ。その実現に重要なのは継続してもらうことであり、そのための意欲の向上のために、ありとあらゆる工夫を施している。これは保険制度に縛られる事業ではなかなか難しい。
保険外サービスという言葉がよく聞かれる。しかし、この言葉自体が実は介護保険制度ありきのものだ。
重要なのは、介護保険制度の内か外かではなく、いかに顧客が幸せになれるかである。保険外サービスの開発に必要なのは、この視点だ。