シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第128回
「まごチャンネル」とは何か?
奈良市に住む後藤次郎さん(67)と妻の幸子さん(66)は最近テレビをよく見るようになった。といっても見るのはテレビ番組ではなく、東京に住む2歳の孫の動画と写真だ。「孫が目の前にいるみたい」「こんなに話すようになったんだ」とテレビにくぎ付けだ。
後藤さんは「スマートフォン(スマホ)でも孫の動画は共有できたが、やはりテレビの大画面で見ると臨場感があって感動する。まるで目の前にいるようで、つい話しかけてしまう」とうれしそうだ。
2人が使っているのは株式会社チカク(東京・渋谷)が開発、サービス提供している「まごチャンネル」。あらゆるモノがネットにつながるIoT家電の一種だ。
どんな手順で使うのか?
家の形をした白い「受信ボックス」を専用のケーブル2本で自宅のテレビと電源コンセントにつなぐだけ。また、通信回線とSIMカードは受信ボックスに内蔵なので自宅にインターネット環境がなくてもすぐ使える。
この簡単さなので機械が苦手な高齢者でもたいてい設置できる。それでも苦手な人には配送員による設置サービスも提供している。
後藤さんの場合、孫と住む東京の息子がスマホにインストールした「まごチャンネル」専用アプリを使って動画や写真を送る。それらが届くと、受信ボックスの窓ランプが点灯して知らせるようになっている。まるで親の家に孫がやってきたようだ。
後藤さん夫婦はテレビの電源を入れ、「まごチャンネル」を選ぶと送られてきた動画や写真を見ることができる。
「まごチャンネル」で家族のコミュニケーションはどう変わるのか?
第一に、家族間のコミュニケーションが増える。親が「まごチャンネル」で動画や写真を見始めると、そのことが送付元の子供のスマホに通知される。これがきっかけで子供が親に電話をする機会が増える。
このように遠く離れて住んでいる家族どうしでも普段の連絡が増えやすい。さらに、子供と孫が実家に帰省した時の話題が増えて、会話が弾みやすい。
第二に、親どうしのコミュニケーションが増える。通常だと会話も少なめな老夫婦も孫の話題で会話が増え、夫婦仲が良くなる例が増えている。
第三に、親と親戚、近所の人たちとのコミュニケーションが増える。孫の自慢話をしたい親にとって大画面テレビによる孫の動画と写真はうってつけだ。
興味深いのは、家族間のコミュニケーションが活性化することで新たな消費が生まれることだ。たとえば、「まごチャンネル」を使うようになった人は、しばしばテレビをワンサイズ大きいものに買い替える傾向がある。画面が大きい方が臨場感が増して、孫が目の前にいるような感覚を味わえるからだ。
また、子供は帰省する際に親が喜んでくれた動画や写真にまつわるお土産を買ったり、親も動画や写真に関連するプレゼントを用意したりということが起きる。
超高齢社会のIoTが目指すべき姿
シニアにも簡単な操作とIT機器らしくないデザインが好評で、利用者はじわじわ増えている。17年10月から野村證券の7つの営業店で順次3000台が導入されるとのこと。個人顧客をもつ法人からの引き合いも増えているようだ。
孫の動画・写真を送る息子夫婦からも「交通費が高いので年数回しか帰省できないが、今しか見られない成長の様子をリアルタイムで伝えられ、親孝行できる」と評判だ。さらに「専用アプリでいつ視聴したかが分かり、遠く離れた両親の見守りにもなる」などの開発側の予想を超えた反響も多い。
IoT家電という言葉が登場して数年がたつ。まごチャンネルが示しているのはIoTという「ハイテク」による「ハイタッチ」の実現だ。これこそが超高齢社会・日本が目指すべき姿だと思う。