VR リアルに感じる条件は?

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VR機器を使えばリアリティーを感じるわけではない

2020年5月15日 日経MJ連載 なるほどスマート・エイジング

「ニューノーマル」という言葉がよく聞かれます。アフターコロナの時代の新生活様式のことを呼ぶようです。外出時のマスクの装着、人と2メートル程度離れること、オンライン会議など、他人と接触しないで生活することがその核になっています。

そこで注目を浴びているもののひとつが仮想現実(VR)を使ったサービスなのですが、それで本当に「現実感」を感じるの??と言うものが目に付きます。こうしたサービスで人がリアリティーを感じるためにはVR機器を使うだけでは不十分です。その勘所を解説しました。

コロナ禍で注目されるVRを使ったサービスだが、どこまで使えるのか?


緊急事態宣言が延長され、人との接触を避ける「新しい生活様式」への移行が叫ばれている。シニアにとりわけ辛いのは旅行ができないことだ。従来旅行市場をけん引していたのは平日でも自由に行動できる60代以上のシニア層だったが、外出自粛で市場がほぼ消滅してしまった。

こうした背景のもと、シニア向けに仮想現実(VR)を使った旅行サービスが登場している。利用者が行きたい場所を指定すると、業者が現場まで赴き、360度の写真を撮影してデータを送る。ヘッドセットを着用した利用者は自宅にいながら行きたい場所の風景を楽しめるという。

また、VRによる墓参りサービスも出現した。依頼があると業者が墓の周辺の風景や、墓参り前後の様子などを撮る。利用者は自宅で自分が墓参りをしているような感覚を体験できるという。足腰の弱った高齢者にはコロナ禍がなくても便利そうに思える。

しかし、こうしたサービスで本当に「現実感」を感じることができるのだろうか。

VR機器を使えばリアリティーを感じられるというのは幻想

一度でもヘッドセット型のVRを体験した人はお分りだと思うが、実物らしさ、リアリティーとは程遠いのが実態だ。

理由はヘッドセット装着による圧迫感とディスプレー画質の低さだ。こうしたサービスは当初はニュースネタになるが、商売にならない例が大半だ。VRとはバーチャル・リアリティーの略だが、VR機器を使えばリアリティーを感じられるというのは幻想だ。

人が遠く離れている先の様子を見て、リアルに感じるのは別の理由がある。スタートアップのチカク(東京・渋谷)が提供する「まごチャンネル」がその例だ。

このサービスでは「家」の形をした専用端末を自宅の大画面テレビとケーブルでつなぐだけで、遠く離れた孫や子供の様子を見ることができる。端末はSIMカードを内蔵し、ネット環境がなくても通信できる。利用者は60代以上のシニア層が多く、こうした簡便さが好まれる。

孫と住む子供が、スマホ専用アプリを使って遠くに住む父母に動画や写真を送ると、「家」の窓ランプが点灯する。まるで父母の家に孫が帰省してきたようだ。父母はテレビの電源を入れ「まごチャンネル」を選ぶと送られてきた動画や写真を見ることができる。

「大画面・高画質」で見る方がVRよりもはるかにリアリティーを感じる

「孫が目の前にいるみたい」「こんなに話すようになったんだ」—利用者の多くは「スマホでも孫の動画は共有できたが、テレビの大画面で見ると感動する。まるで孫が目の前にいるようで、つい話しかけてしまう」と言う。

なぜ、まごチャンネルだとリアルに感じるのか。最大の理由は、ヘッドセットによる拘束がなく「大画面・高画質」で画像を見るからだ。

一昨年に大ヒットした映画「ボヘミアン・ラプソディ」は通常の劇場よりも、「IMAX」で見た方がはるかに迫力を感じたという人が多い。人間は視野角が一定以上の大きさになると、2次元画像でもリアリティーを感じるからだ。

もう一つの理由は「孫の様子」という父母にとってのキラーコンテンツだからだ。いとしい人や懐かしいものは見た瞬間に、それにまつわる記憶がその情動と共によみがえるこれが見た人にとって現実感をさらに深めるのだ。

「新しい生活様式」への移行はシステム導入だけではなじめない。生活環境の変化を受け入れやすくするには、まごチャンネルのような「ハイテク」による「ハイタッチ」が求められている。

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