保険毎日新聞 2006年11月15日号

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2006年11月15日号 保険毎日新聞
 
本紙連載中の「保険業とジェロントロジーとの接点」の筆者、村田裕之氏訳による注目の書。著者は、Who’s Who In Americaの「Best Doctors In America」の一人で、米国ジェロントロジー学会長も務めたジェロントロジー分野の第一人者。冒頭に「姥捨て山伝説」や葛飾北斎の晩年の作品について触れるなど日本の事情にも詳しい。

「人はいくつになっても変われる」「何かを始めるのに年をとりすぎることはない」といったせりふは、これまで多くの識者によって繰り返し語られてきたが、その大半は科学的な裏付けのない単なる“精神訓”だと言う。人が年をとっても成長し続けられるのは、成人した後でも脳の神経細胞が新たに生成され続け、脳の構造がダイナミックに変わり続けるためである。

このことが科学的に立証されている事実は、脳科学者には知られていても、一般の人にはほとんど知られていない。著者は、そうした最先端の研究成果を示すだけでなく、それが中年期以降の人の知的能力の発達にどのような意味があるのかを自身の何千人ものインタビューと関係づけている。

いわゆる専門家が特殊な“専門用語”で自分の“専門分野”だけを語る例は枚挙にいとまがない。だが、同書は、脳科学の話から始まるものの、そうした科学分野の話だけにとどまらず、退職者のリタイア後の有意義な生活や後半生で創造性を発揮するライフスタイルの提案にまで及んでいる点がきわめてユニークである。

まもなく還暦を迎える団塊世代にとって後半生をいかに充実して過ごすかは大きなテーマだ。年金や医療、介護などの不安が常に付きまとう一方、心身ともに健康で知的な生活を切望しているのも事実だ。そういう人たちにとって、同書は、後半生における人間の可能性について、静かに、やさしく、説得力をもって語りかけてくれる。

高齢社会の進展で、保険業にもますます新しい顧客サービスが求められている。啓発書として優れているだけでなく、ワンステップ上のヒントを得たい人にとっても必読の書だ。

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