Clinic ばんぶう6月号連載 データから読むイマドキ「シニア」の実態第11回
JR九州が2013年10月に運行開始したクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、高級感ある内外装にこだわった車両に乗り、3泊4日または1泊2日の日程で九州の名所を回る贅沢な旅行だ。車内にはグランドピアノもあり、一流シェフの料理も味わえ、いわば、高級ホテルに滞在したまま、電車旅行ができるようなものだ。
料金は、2016年9月28日出発分「ななつ星in九州プレミアム5日間」の場合、2名一室で1人当たり65万~87万円、1名一室で96万~138万円とかなり高価だが、60歳代を中心に予約が埋まっている。
これだけの高額ツアーなので、富裕層ばかりが申し込んでいるのかというと、実はそうでもない。第一期に千葉県から参加した65歳の女性は介護職員だった。図のとおり、一般に高齢者世帯の所得はそれほど高くない。なぜ、富裕層ではない一般の人が、こうした高額商品を購入するのだろうか。
アメリカの心理学者コーエンは、50代中盤から70代前半にかけての心理的発達の段階を「解放段階」と呼んでいる。この段階には「いまやるしかない」という意識を持つことが多くなる。これが新たに「内なる解放感」を呼び起こす。また、解放、実験、革新が行動上の特徴で、自分の要求に従い、自分の思いや個人の自由意識から計画を立てたり、行動を起こしたりする傾向がしばしば見られる。
たとえば、サラリーマンを早期退職して沖縄に行ってダイバーになる。あるいは、ずっとパートでレジ打ちをやっていた女性がダンスの先生になる、といった具合だ。
なぜ、50代中盤から70代前半に「解放段階」が訪れるのか。1つは、脳の潜在能力が発達し、新たな活動や役割に挑戦するエネルギーが湧きやすくなっていること。もう1つは、この時期には退職や子育て終了、親の介護の終了などライフステージが変わりやすいこと。
これらがきっかけで心理面の変化が起きやすくなる。もう人生長くないのだから、自分のやりたいことをやろう、という気持ちが新たな行動を後押しするのだ。
先の65歳の女性は「夢の列車に、最初に乗れてうれしい」と話していた。富裕層でなくても、列車が大好きで「これを逃したら二度と乗れない」と思えば、へそくりをはたいてでも豪華ツアーに参加する。これがシニア層の消費の一つの断面だ。