シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第122回
新規部門が既存収益部門と「同じ土俵」で比較される
大企業が団塊・シニアビジネスを新規事業として取り組む際の「壁」の一つは、社内での新規事業立上げの敷居が高く、すぐに成果が出しにくいことである。
この場合の問題は、まず、新規事業部門が、既存の収益部門(プロフィットセンター)と「同じ土俵」で比較されることだ。
一般に、既存の収益部門の売上が大きいほど、新規事業部門は、やりにくくなる。例えば、年商一兆円程度のメーカーの場合、すでに全国各地にある営業所で、コストダウンや経費節減、卸価格の引き上げなどの工夫により、一年程度でも20から30億円程度の売上げアップは比較的達成できてしまう。その理由は、スケールメリットがあるからだ。
ところが、ゼロからの新規事業立ち上げの場合、前述の理由により、二年間でも、その売上げを10億円まで持っていくことすら、かなり難しいのが現状だ。
新規事業部門は、そもそも既存の収益部門の先細りを懸念して、既存の収益部門では取り組めない新しいことに挑戦しており、すでにできあがっているルーチンワークを回すよりも多大な労力が必要だ。
しかし、事業開発活動が、実際の収益になかなか結びつかないと、既存の収益部門と「同じ土俵」で比較され、「金食い虫」「給料泥棒」と批判され、社内で肩身が狭くなる。
このために、新規事業部門で「ババ」を引くより、既存収益部門で定年退職まで安全にルーチンワークをやっていたいという人が多い企業も少なくない。新規事業の最大の敵は社内にあり、と言われるゆえんである。
昔に比べて短くなった新規事業の「企業の耐久時間」
もう一つの問題は、新規事業における「企業の耐久時間」が、昔に比べて短くなっていることだ。昔は、新規事業の評価の目安は、三年で単年度黒字、五年で累損解消といわれた。ところが、いまは一年半で黒字、三年で累損解消、そうでなければ整理するという時間軸のところも増えている。
新規事業における「企業の耐久時間」が、昔に比べて短くなった最大の理由は、市場変化の速度が昔に比べて早くなったことだ。
新商品を出しても、すぐに他社に真似され、陳腐化してしまう。このため、新事業を検討する際に巨額の投資と長い時間が必要な案件は、取り組みづらくなっている。
やる気を削ぐ頻繁な体制変更
また、企業における組織体制の変更が昔に比べて頻繁に行われるようになったことも理由の一つだ。ある企業では、「○○シニアプロジェクト」「団塊プロジェクト」とプロジェクトだけは数多くできるのだが、すぐに体制が変わり、一年も経たないうちに消滅することが多い。
こうした体制変更があまりに頻繁に行われると、社員のほうも「どうせ、この体制も長続きせず、また、すぐ変わるさ」という感覚になり、肝心の新事業への取り組みに腰が据わらなくなる。
現代の経営者は「短期」志向が強い
このように、新規事業における「企業の耐久時間」が短くなったにも関わらず、コスト意識が薄く、扱いやすかった法人顧客と異なり、わがままな個人のシニア顧客は、手間がかかる割に、そう簡単には儲けさせてくれず、なかなか事業が軌道に乗らない。
経営トップからも、当初は「がんばれ、期待している」と言われるが、半年経つと「あの件はいまどんな状況か?」と何か進捗がないかとやんわりと聞かれる。
ところが、一年も経つと、「そろそろ芽が出ただろう」とプレッシャーをかけられるようになり、一年半も経つと「もう、先が見えてきただろう」と苛立たれる。そして、二年経った段階で先が見えなければ「いったい、何をやっているんだ」と言われ、そこで終わりとなる。
経営者というのは、そもそも「短気」だが、現代の経営者には「短期」志向が強い人が多いようだ。