月刊マーチャンダイジング 2016年10月号〈STUDY シニアビジネス研究〉
スーパーマーケットやショッピングセンター、ドラッグストア業界の専門誌、月刊マーチャンダイジングに「不満、不安、不便-「不」の解消にこそチャンスあり シニアビジネスがわかれば、成熟市場が成長市場になる」と題して、私へのインタビューと著書をもとにした特集記事が掲載されました。
表題は正確に言えば「シニアビジネスの勘所がわかれば、成熟市場を成長市場に変えられる」でしょうか。
かねてから主張している通り、飽和市場というのは、実は市場が飽和しているのではなく、市場を見る私たちの頭の中が、物の見方が“飽和”している場合がほとんどです。
どんな業界の人でも、そこに長くいるほど、「この業界とはこういうものだ」という業界常識が出来上がります。常識感覚は、日常業務をソツなく効率よくこなすには不可欠ですが、市場変化が激しい時代には逆に足かせになります。市場が飽和しているな、と感じた時には、一度そうした業界常識感覚を捨てて、一消費者としての立場で商品・サービスを見直すことが必要ではないでしょうか?
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そもそもシニアビジネスの「シニア」の定義とは何だろうか。「かつて、55歳からを高齢者と呼んでいた時期もありました。現在の高齢者の定義は65歳以上の人ですが、政府は社会保障や年金政策などの都合で70歳、75歳に引き上げたがっています。つまり、高齢者の定義は時代によって変わる『社会的定義』です。一方、「シニア」には「年長」という意味しかなく、年齢の定義はありません。私たちは現状シニアを60歳以上の人としています。いくつか理由はありますが、最大の理由は正味金融資産が多い年齢層だからです」(村田裕之氏)
シニアビジネスが有望と言われる背景は人口ボリュームが大きいことと金持ち、時間もちであることと言われるが、実態はどうなのだろうか。
平成24(2012)年の総務省「家計調査」によれば、世帯主の年代別正味金融資産(貯蓄から負債を引いたもの)は1世帯あたり60代が2,052万円、70歳以上が2,101万円となっている(図表1)。この数値と厚生労働省「国民生活基礎調査」をもとに村田氏のチームが算出した結果、60歳以上の人が保有する正味金融資産の合計は482兆円となっている。
一方、年間所得は60代が541万円、70代が403.8万円と他の年代に比べて少ない(図表2)。多額な金融資産(ストック)の反面、他年代より少はない所得(フロー)が実態で、「ストックリッチ・フロープアー」と呼ばれる。
「この傾向が意味するところは、資産がたくさんあっても、主にフロー(所得)によって賄われる日常の消費では価格に敏感な消費行動をとるということです。お金があるからといって必ずしも高いモノは買わない。シニア層の日常消費は、資産でなく所得にほぼ比例するというのが実態です」(村田氏)
また、普通の生活実感から、あるいはジニ係数※を用いた内閣府の調査を見ても、高齢者になるほど所得格差が高い傾向があり、シニア層の経済状況を一様にくくることは難しい。
後述するように、村田氏は、シニアマーケットはひとつのかたまりではなく、いくつものミクロ市場の集合体であると論じており、シニア層の多様性を認識することがビジネス成功の入り口だといえる。(記事より抜粋)