日本経済新聞夕刊 2016年7月13日 読み解き現代消費
日経夕刊2面の連載コラム「読み解き現代消費」に『「自己復活」「夢実現」消費 50代、自分らしさ再確認』を寄稿しました。
「読み解き現代消費」は、毎週水曜日、気になる消費トレンドについて、その背景などを読み解くコラムです。私も執筆者の一人に名を連ねており、一か月半に一度のペースで寄稿しています。以下に全文を掲載します。
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横浜市に住む大竹和子さん(54)は、学生時代の仲間と軽音楽バンドを再結成し、3年前からピアノに再び取り組み始めた。30年余りのブランクのため、当初は指の動きもぎこちなかった。しかし、徐々に昔の勘を取り戻し、今は数カ月に一度レストランでの演奏会で披露できるほどになった。
町田市の水野雄二さん(55)は最近書斎を防音ルームに改造し、真空管アンプ、大型スピーカーなどの高級オーディオを導入した。大学時代オーディオマニアだったが、当時はお金がなく安物ばかりで我慢していた。親の介護も子育ても一段落した今、夢をようやく実現したのだ。
私は、大竹さんのように昔やっていたことにもう一度取り組み自分らしさを取り戻そうとする消費を「自己復活消費」、水野さんのように昔は経済的にも時間的にも実現できなかった夢を今実現する消費を「夢実現消費」と呼んでいる。こうした消費形態はおおむね50代以降に多く見られる。なぜ、50代以降なのか。
まず、50代は20代、30代に比べて経済的に余裕ができる。年齢別の年間所得の面では50代が最も大きいからだ。一方、50代になると一般には老眼など感覚器の衰えや脳機能の衰えで新しいことに取り組むのがおっくうになっていく。すると、昔慣れ親しんだことの方が取り組みやすくなる。
さらに、50代になると職場での役割や先行きがある程度見えてくる。すると、仕事以外の時間の使い方を考えるようになる。その際、自分の存在意義や大切にしている価値観を再確認しようとすれば「自己復活消費」として表れるし、人生の残り時間を意識すれば「夢実現消費」として表れる。
どちらの消費形態も子育て終了や退職などを機に時間の拘束から解放されて起こるもので、中高年特有のものである。時間消費であるコト消費を意識する小売業などは、こうした中高年の心理面の変化が生み出す需要に目を向けると、新たな事業機会になるだろう。