シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第112回
総務省が実施している「家計消費状況調査」、「平成 26 年全国消費実態調査」を眺めると一般にはあまり知られていないシニアのネットショッピングの最新動向がわかる。今回はそのなかから特に重要と思われる三点を紹介したい。
70歳以上の高齢者でも50歳代並みに支出
第一点は、50歳以上のネットショッピング利用者の割合は、年齢が上がるにつれて減っていくものの、利用者の支出総額は50歳代、60歳代、70歳以上でほぼ同水準となっている点。つまり、70歳以上の高齢者でもネットショッピングを利用している人は、50歳代並みに支出しているということだ。この点を次に詳細に説明しよう。
二人以上の世帯における 2015 年1年間のネットショッピングを利用した支出総額を世帯主の年齢階級別に見ると、50 歳代が 155,916 円と最も多く、次いで 40 歳代が146,064 円となっている。一方、60 歳以上の高齢層は 60 歳代が 88,392 円、70 歳以上が 43,404 円と60歳未満の世帯に比べて少なくなっている。
この差の要因は、ネットショッピングを利用した世帯の割合の違いによるもので、 39 歳以下が 45.2%と最も高く、年齢が高くなるに従って割合は低下しており、60歳代で22.1%、70 歳以上では 11.1%に過ぎない(図1)。ネットショッピングが普及したといっても、高齢層の利用者数割合はまだ少ないのが現状だ。
「シニアはネットを使わない」は過去の話
ところが、ネットショッピングを利用した世帯に限定した年間支出総額で見ると、70 歳以上は 387,804 円で、最も多い 50 歳 代の407,988 円とほぼ同水準の支出となっている(図2)。要するに利用者割合はまだ少ないものの、高齢層でも利用している人は結構買っているのだ。
この事実は、ネットショッピングの利便性や価値に納得すれば、高齢層も積極的な消費者になる、つまり私が17年前から提唱している「スマートシニア」になることを示している。したがって、今後60歳代以上のネット利用者割合が増加すれば、60歳代以上のネットショッピング市場も大幅に拡大することが予想される。「シニアはネットを使わない」というのは過去の話になりつつあるのだ。
「旅行関係」「保健・医療」はネットでも高齢層の支出大
第二点は、ネットショッピングの多くの購入費目は年齢が上がるに従い支出割合が減るが、「旅行関係」と「保健・医療」は例外である点。特に「旅行関係」は、60歳代ではネットショッピング支出の約4分の1を占める最も支出の大きい費目だ(図3)。
旅行は、65歳前後の退職を機に半分近くの人が実施することがわかっているが、その支出方法としてネットショッピングがかなりに一般的になっていることがわかる。
また、紙面の都合で割愛するが、「保健・医療」は年齢と共に支出が増え、70歳以上が最大でネットショッピング総支出の8%を占めている。そのうちの5.9%(「保健・医療」の74%)が健康食品、2.2%(同26%)が医薬品に対する支出となっている。
私は以前よりシニアの三大不安は「健康・経済・孤独」の3K不安と言っているが、ネットショッピングにも健康不安を解消したいニーズが反映されていると言える。
60歳代ではネット決済は完全に普及段階
第三点は、「旅行関係」でネットショッピングを利用している60歳代の61%がネット決済を行っている点。つまり、60歳代ではネット決済は完全に普及段階になったということだ。
一昔前はシニアがネットを使う場合の最大の懸念はセキュリティだと言われた。そうした懸念は今でも残るものの、信頼できるネットショップであれば、ネット決済に対する不安はかなり払拭されていると言えよう。
すでに高齢者の仲間入りをした団塊世代のみならず、その次の世代が高齢者の仲間入りをするに伴い、シニアのネットショッピング市場はまずます拡大していくだろう。